君の事を愛している。だから、大切にしたいんだ。
そんな愛の告白を受けたのは、つい数分前。今思えば警戒を解こうとしていたのかもしれない。とてもありきたりな言葉だけど、僕に対しては始めて聞いた言葉だったから。ああ、でも、そんな言葉に騙された僕が馬鹿だった。相手はあの狛枝クンなのだから。でも、こんなのってないよ!


少し前の事。最近は寒くなってきたからと、部屋に呼ばれた。彼が静かな所を好むのも知っていたし、対して不思議には思っていなかった。
僕の部屋とは少し違い、狛枝クンの個室には簡易キッチンがついている。冷蔵庫もあるし、寮というよりはワンルームマンションの様だ。そのキッチンで、彼はよくホットココアを作ってくれる。今日も例に漏れず、とても美味しいココアを作ってくれた。そこまでは問題無い。問題なのはここからだった。ココアカップを置き、真剣な表情をつくり何をするのかと思えば冒頭のあの台詞。は、と唖然とする僕の唇を、彼は塞いだのだ。
「んむッ、は、ぁ…」
あああ、恥ずかしい恥ずかしい。体を離そうと腕を突っ張っても、狛枝クンの胸板はびくともしない。かといって動きすぎると、ココアが零れてしまう。それで火傷しちゃったらまた狛枝クンが自分を攻めるのだから、僕は両手でしっかりとカップを握っているしかない。理不尽だ。外道だ。
「はぁ…ちょ、…っと、狛枝クン」
唇が離れた瞬間、大きく息をする。すぅ、はぁ。ココアの匂いがした。
いくらか息が整ってから、また狛枝クンの顔が近づく。咄嗟に目を瞑ると、今度は顔中にキスを落とす。やめてと言いたいのに、言えない。息が掛かるのが恥ずかしい。頬に、目尻に、おでこに、鼻に。狛枝クンは脇目も振らずそうやって唇を落とすのに、僕の耳に吐息を吹きかけているのに。
「ハァ…、苗木くん…」
「やッ!?ちょ…ダメだって…ッ」
べろりと耳を舐められる。それと同時に股間をぐにぐにと手で押し付けてくる。ダメだって、言ってるじゃないか。僕の事を大切にしてくれるんじゃないのか。なんなんだこの状態は!
そんな心の声が届いたのかは定かでないが、今にも零れそうなココアを僕の手から奪い、サイドテーブルに置いてくれた。これで思う存分抵抗できる、はずだったのだが、どうした事だろう。力が抜けた。抵抗らしい抵抗など出来ないまま、僕は狛枝クンの上に座らされた。僕の顔が見られないのがせめてもの救いだ。
「ひッ、そこ、だめぇッ!」
後ろから抱きすくめられ、もぞもぞとパーカーの中に手が入ってくる。ぎゅう、と胸の突起を抓られ、こねられ、撫ぜられ、熱を持っていく。
ズボンの中に入りこんでいた手は、そのまま僕のズボンとパンツを脱がしていた。
「あはは、暴れないでよ。脱げないでしょ」
「は、ぅ、ぬがないからぁ!」
「苗木くんは着衣プレイが好きなんだ?」
「や、ちがぅぅ!」
抵抗虚しくズボンはするりと足を抜け、ひんやりとした外気にぶるりと震える。
「今、きゅうってしたね」
「してな…あッ、ん、ふぁぁ」
つぅ、となぞられるだけでおかしいくらいにビクビクと震える。
制しようと狛枝クンの手を掴んでいた手で口を抑えた。どこもかしこも、熱い。熱いモノが、お尻に当たる。ひ、ぃ
「…ッ、」
狛枝クンは何を思ったのか、僕の膝裏に手を添えて足を開かせた。
「ゃ、やめてってば!」
ずっと強く閉じていたせいで、とろとろと溢れ出る先走りが内股へと糸を引いている。かわいい、と、耳元で囁いて耳朶を舌でなぞられた。
「ぅ、…やだぁ」
ちゅくちゅく、耳元で音がする。僕の目の前には誰もいないけれど、見えない誰かに僕の秘部を見られているような、よくわからないぞくぞくがせりあがってくる。
「、苗木くん」
カチャカチャとベルトの外れる音がする。だめ、それはだめ、やばい。逃げたい。
「ハ、ァ…なえぎくん、なえぎくんなえぎくん」
「こ、こまえだ…クン、」
「ッ、!」
名前を呼ぶのが逆効果、なんて事は知るはずもなく、強引に後ろを向かせ唇を合わせながら、ぐちゅり、と、亀頭を擦り合わせる。
「ふぁッ!あ、あぅ、んッ、だめ、だめだってこまえだく…んあッ」
いつの間にか取り出されていた狛枝クンのソレも、見るに耐えないほど完全に勃起していて、僕のものと擦り合わせるように抜いていくと、ああもう、だめ。
「や、ふ、あぁぁッ!」
「ッふ、ぅ」
びゅるり、と、白濁を空虚に吐き出した。
「は、あぁ…」
倦怠感に抗わず、狛枝クンにもたれかかる。狛枝クンは、僕をベットの真ん中に寝かせてくれた。
熱い。顔が熱い、目頭が熱い、身体中が熱い。冬なのに汗を浮かべる僕の首筋をツゥ、と舐め狛枝クンはにっこりと口を開いた。
「じゃ、次は挿れるね」
「………はぁ!?」
あまりにも当たり前そうに、あの笑顔で言われて一瞬理解が出来なかった。なんと言ったか。挿れる、と。なにを。
サァっと血の気が引く。がっちりと腰を捕まえて下腹部に顔を埋めて、だめ、だめ、だめ!
「こ、狛枝クンの…ッばかぁ!」
ガツン、がむしゃらに動かした足は狛枝クンの頭にクリティカルヒットした。さすが幸運。いや、不運。
「もう知らない!」
服を掻き集めて、ねっとり感はそのままにズボンを履いた。腰が痛い。なりふり構わず扉へと進んで、僕はその捨て台詞を吐いたのだ。
「ちょ、苗木くん!」
狛枝クンが何か言っていたようだが、防音の扉に遮られもうなにも聞こえない。何が聞こえたとしても、もう騙されないぞ!
口に蜜あり腹に剣あり
(甘い言葉に御用心)
(それはただの毒なのです)