香りはとても良い、と思う。いや、香りだけだ。何度か試したが、その度「もう飲まない」と決めたはずだった。でも、こうゴクゴクと美味しそうに飲まれてしまうと、美味しいんじゃないかと思えてしまう。ああ、いい香りだ。
「何だ」
「あ、いや…別に、何でもないよ!」
いつの間にか凝視してしまっていたらしい、向かい側にいた十神クンが不機嫌な顔で読んでいた本から視線を上げた。
「…コーヒーが飲みたいのか」
「いや…」
ああ、なんでわかったんだろう。そんなにコーヒーが好きそうにでも見えるのかな。…見えないだろうなぁ。
「欲しいのならくれてやる」
「え!?」
「いるのか、いらないのかハッキリしろ」
「えと…」
「この俺がやると言っている物が貰えないのか!?」
「い、要りますぅ!」
「フン、最初からそう言えばいいものを」
「(それは誘導尋問だよ…)」などと言えるはずもなく、残り僅かなコーヒーに口をつけた。

やっぱり、コーヒーは何があっても貰わないようにしよう。


コーヒーが飲めない苗木と、間接キスに喜ぶ御曹司