※絶望してない罪木さん



教室には私以外、誰も居なかった。窓の外は、暗い。蛍光灯はいくつか電気が付かなくなっていて、いつもの明るさは無かった。
私はこれが夢である事を、感覚的に知っていた。知っていた、のだけれど私にはこの身体を自由に動かす力は無かった。意識はあるのに、やりたくないのに、勝手に身体は動き始める。本当に、嫌な夢だ。

私はどこかの教室の、誰かの席に着いている。どうしてここにいるのか、私にはわからない。薄暗い教室は、不吉でしかなかった。
パタパタパタと足音が聞こえる。と同時に、今まで付かなかった蛍光灯が光を帯び始める。

私は席に着いている。ガラガラ、と扉の開く音に肩を揺らす事も出来ず、機会的に振り返った。

「ごめんね、待たせちゃったかな」
「いえ、大丈夫ですよぉ。当番、お疲れ様です。」

息を切らせて走ってきたのは、最近知り合った一年生。いや、知り合ったとは言えないか。私が一方的に知っているだけだった。

どうして、話した事もないこの子が夢に出てくるのだろう。不信に思いながらも、夢の私は楽しそうに談笑している。
会話が頭の中に入ってくる。いやだ、聞きたくない。こんなもの、私は知らない。嫌だ、嫌だ、嫌だいやだいやだ。聞きたくない!

それでも私の身体は容赦無く動き出す。喋る、笑う、しまいには彼に向かって手まで伸ばしてしまう。それだけは、ダメだ。人に触れる事は、とてつもない幸福だと思っている。暖かい。自分と同じ温もりを持ってる。それだけが自分と他人が同一であると思わせてくれた。怪我をした人の処置をする時。風邪の看病をする時。私はそんな時でしか、触れる事を許されていない汚い人間だ。

どんな幸福な夢だったとしても、その実私の中では悪夢としてしか存在出来ない。
夢から醒めてしまえば、幸福感なんて微塵もない現実に出くわすのだ。その落差は、まさしく悪夢と呼ぶに相応しい。

幸福を感じる度、その溝は深まる。だから、触れてはいけないのだ。自分が辛くなるだけ。でも、だけど、それでも。
触れてみたいと切望する私は、どこまで浅はかな人間なんでしょう。


淡い夢の中で、君に触れる
(今度こそ、)


タイトルby確かに恋だった様。
君に、触れるシリーズ。