僥倖


自分が今まで見ていたものは、ただの側面でしかなかったことにようやく気づいた。
もっと早く気がつき改正すべきだったのに、と後悔しても既に遅かった。
もう既に自分は罪を犯し、どう足掻いても遅いのだ。館はもう原型を保ってはいなかった。館は消え、老人も、レミも消え、僕と弾丸の使い果たした拳銃と、暗闇だけが取り残された、虚しい世界。少し前までは楽園だとまで思えた世界は、結局は虚像。そしてその虚像をまた創り出そうとイメージを働かせるも、出てくる館は歪なものだった。

自分が死ぬ想像をしてみた。

泣く人はいなかった。僕の死に憤る人もいなかった。絶望する人もいなかった。喜ぶ人もいなかった。僕以外に、誰もいないのだから。



(はやくだれかこないかな)