「でか…」


「(ここが、"超高校級の御曹司"の家か)」

家というには余りに大き過ぎるそれは僕を驚かせるのは十分すぎるもので、今日からここに立ち入る事になると考えるとまるで実感が湧かない。

十神クンは慣れた手つきで中へ入っていく。
それに続こうとして、立ち止まる。

「苗木?」

――言いようのない不安がざわざわとこびりついて、取れない。
いつでも帰ってこれるのに。
いつでも会いに行けるのに。
中に入ってはいけないような気がするのはどうしてだろう。

「はやく来い」と、腕を引っ張り、彼は進んでいく。

自分で行くと言ったんだから、と覚悟を決める。
異様に長い廊下は僕の気を落ち着かせてくれた。



ふと、ずっしりと重量感のある扉の前で立ち止まった。
ここが彼の部屋だろうか。いや、もしくは職場。……あれ、僕ってどんな仕事するんだろう。

「ねぇ、僕の仕事ってなに…?」

ガチャガチャと鍵を開ける十神クンの背中に話し掛ける。
扉を開け中に入っていく十神クンに続くと、本がぎっしりと詰まった本棚、パソコンの置かれたデスクが目に入る。
書斎、とかかな。

「何もしなくていい。ただこの部屋にいるだけだ」
「………は?」

一瞬のフリーズのあと、でも、と続ける。

「だって雇われてるんだよ?何もしないっていうのは…」
「ならばお前は何ができる。料理や掃除だって満足にできないだろう」
「ならなんで僕を連れてきたの」
「何度も言わせるな。お前は何もしなくていい」

反論材料がなく、言葉に詰まっている、と、十神クンは奥にあったもう1つの扉を開けて僕の方を見る。
それが「来い」と言われているように思えて、扉に近づく。


「何もしないのが嫌なら仕事を与えてやる」

そう言うと、生活必需品以外何もない、ただ広い部屋にぽつんと置かれたベッドへと投げ飛ばされる。

「ひっ、」

そのまま押し倒され、僕は息をのんだ。

「凡人に似つかわしくない、名誉な仕事だろう?」
「や、やめてよ」

だらり、と汗が伝う。冷静を装おうとするたび、声は上擦り汗がふきだす。

「やめっ、…んぅっ、んー!」

唇を塞がれ、息すら出来ない。固く閉じた歯列をなぞり、彼の舌は中へ侵入しようと動く。
それが、葉隠クンの"それ"と似ていて、涙が溢れた。





補食者