「おっかえり!苗木っち」
「ただいま」

バイトが終わり、自分の家じゃなく葉隠クンの家へ。
こういう事は日常的なもので、家に訪れた時は「おかえり」が当たり前になっている。

「今日バイト先にあの"超高校級の御曹司"が来たんだよ」
「ほんとか?昨日見た俺の聖痕のご利益だべー!」

そう笑った葉隠クンは少しお酒くさい。
まぁ成人してるからいいんだけど、たまに僕にまで飲ませようとしてくるのには困るな。

「あとさ、「俺の家で働け」なんて変なこと言われたんだ」
「はい?」

食べていたアーモンドフィッシュをぽろりと落とし、意味がわからない、と固まっている。ムリもない、僕だってそうだったから。

「その話、苗木っちはのるんか?」
「んー、わかんないよ。いきなりだしさ。」
「そっか」

「じゃ、今日も聖痕見とくべ!?」
「わっ」

葉隠クンが僕の首に顔を埋めると、彼のドレッドがくすぐったくてついつい笑ってしまう。
きっと明日もいい事がある。彼の聖痕を見たんだから!
なんて、ね。






気がつけば朝だった。
といってももう昼も近い。だいぶ寝ていたようだ。
ベッドの隣には葉隠クンがまだ寝ている。
僕より年上なのに、まるで子供みたいな寝顔に、顔が綻ぶ。

「やっと起きたか。」
「なっ、と、十神クン!?」

目に飛び込んだのは葉隠クン家の机で優雅に本を読んでいる"超高校級の御曹司"の姿だった。

「どうしてここに!」
「わざわざ説明しないといけないのか。」
「…もしかして大家さん?」
「そうだ。友人だと言ったらすぐに開けたぞ」

これじゃ空き巣し放題じゃないか?後で伝えておこう。この部屋には彼のネットで落とした宝物がたくさんあるのだから。

「俺がこんな所まで来た理由はわかるよな?迎えにきたぞ」
「ちょっと、まだやるかどうかわかんないって」
「ほう、断るというのか。ではそこの男に渡した金を返してもらうとするか。」
「え?」
「起きてるんだろう?葉隠」

ベッドを見ると、気まずそうな顔で布団から顔を出す葉隠クンと、目があった。

「どういうこと?」
「そ、それは…えーっと…」
「そいつは占ってやった娘の貯金に手を出したんだ。暴力団関係者の娘とも知らずにな」
「そう…なの?」

「うっ、事実だべ…でも金はそいつがくれるっつうから貰っただけだぞ!?」
「どうだかな」

なにこれ。まるで葉隠クンが僕を売ったみたいじゃないか!
でも、だけど葉隠クンは「くれると言ったから貰っただけ」って言うし十神クンはあからさまには否定しない。
…だから、お灸を据える程度に、じゃないと僕も気分悪いし。

「僕、十神クンのとこで働くよ」
「な、苗木っち!?」
「そうか。ではすぐ荷物をまとめろ」
「なぁ、待つべ!」

ちょっと可哀相だけど、こんな事で嫌いになったりしないよね…。






100万で売買成立。