狛苗
ネタバレ
既に夜の8時を回っていた。
クラスメイトの桑田や葉隠と食堂で夕飯を済ませ、いつものくだらない話で盛り上がっていたのだが、何時間と席を陣取っていたせいか、神妙な顔つきで近づいてきた料理人から、半ば逃げるように去っていった。
そのまま解散し、寄宿舎の自分の部屋へと向かう。

食堂にいる一流の料理人もそうだが、全学年の生徒を住まわすことの出来る寄宿舎があるのは希望ヶ峰学園だけだろう。
"普通は"などと言った言葉が通じる場所ではないが、それでも初めてその存在を知った時は驚きのあまり声をあげたものだ。


なかなか外に出られないのが難点なんだけどなぁ、なんて考えていたら、「なーえーぎー君っ」と聞き覚えのある声がした。

声の主を振り返えろうとした。が、何故かそれよりも早く両手を掴まれた。
背後から器用に僕の両手を挙げ、バンザイの状態になる。

「わっ、どうしたの?狛枝クン」
「こんばんは!苗木君に会えるなんて、今日はとってもツイてるね!」

ふふふと笑って、掴んでいる手をぶらぶらと振る。
いつも会うたび突拍子もないことをしてくるこの先輩。最初はそうでもなかったのだが、いつ頃からか…彼の希望への固執が垣間見えるようになってからだったか。

いきなり後ろから抱きしめられたり、唇がくっつきそうなほど顔を近づけしげしげと見つめてきたり。
何を思ってやっているのかは僕にはわからないけど、周りから…特に霧切さんに見られて誤解でもされたらと思うと気が気じゃない。

そんな僕を余所に、狛枝クンはいつものマシンガントークをかましている。

「なんかさぁ、僕のクラスの飼育委員が苗木君のこと手懐けてやるーなんて言ってるんだよね。気をつけてね、奴の必殺技「よーしよし」をされるとどんな動物も手懐けちゃうらしいんだ!苗木君って小動物みたいに可愛いからね、心配だなぁ。あ、僕みたいなゴミクズに心配されるまでもないか!同じ幸運なのに友達もいて前向きで希望顔の君と比べるのもおこがましいよね!ごめんごめん、自己嫌悪で死にたくなってきたよ!」

病弱そうな彼は酸欠で倒れるんじゃないだろうか。
思わずそう考えてしまうほど、妙に自分を卑下したトークは途切れを知らない。

「ああ、そもそも呼び止めちゃってごめんね!お風呂に行くんでしょ?さっきお友達と食堂で別れたばっかりだもんね。」
「えっ、その時から見てたの!?」
「見てたよ!でも君が気づかないのも当然さ。僕なんて対した才能もないその辺のゴミだからね。おこがましいついでに一緒にお風呂に入らないかい?いろいろ洗ってあげるからさ!」

ほらほらとお尻を押され、(普通は背中なんだけど、)まるでホテルみたいな豪華な自分の私室にはいる。

仕方ない、と着替えを用意してると
「そんな用意後でいいよ!この部屋のシャワー使うんだから!」
「シャワーで2人はキツイよ!」
「密着すれば大丈夫!ほら早く!」
「や、やめてぇぇぇえ!」

必死の抵抗も虚しく、服をひん剥かれ、ぎゅうぎゅうのシャワールームでいろいろ洗われてしまった。

「幸運すぎて…日向君あたりが死んじゃうかもしれないな!」

冗談めかして言った言葉は、赤い顔で縮こまってる後輩には届いていないようだった。
湯けむり温泉幸薄事件簿
カムクラ死んでうっかりハッピーエンドなんて絶望的

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -