お願いあと3秒だけ
キリッギリさんキャラ崩壊
にょた苗





『放課後、部屋にきて。』

そう言われて、期待しない方がおかしい。
もじもじと、顔を真っ赤にされたら尚更だ。

あの時の苗木さんは――
「おい、霧切!」

広がりかけていた私の想像は、何時にも増して怒りを含んだ十神君の声に邪魔をされてしまった。

若干イラッとしつつ、今が掃除中だった事を思い出した。

「さっさと掃除を済ませろ。あとはお前だけなんだ。俺を待たせるな」
「………ハァ」
「何だそのため息は」
「別に。」

険悪なムードに、周りに居た他の掃除当番は「私がやっておくから帰っていいよ…?」などと零している。

「いいのよ。それより私、苗木さんに呼ばれてるから早く終わらせましょう。」
「っ…、」
「うんうん!」

朝日奈さんの手伝いもあり、比較的早く終わった。全く掃除をしなかった十神君にゴミ捨てを押し付け、苗木さんに会うべく寄宿舎へと向かった。





インターホンを押すと、苗木さんはすぐに出てきて私を向かい入れた。

「散らかってるけど、座って」

制服ではなく、ラフな部屋着に着替えていた。タオル地のショートパンツから伸びる足も、落ち着かなそうに動く手も、なんて可愛いのかしら。

「どうしたの?霧切さん」
「なんでもないわ。それで、話って何かしら」
「!あぁ、あのね…相談なんだけど…」

顔を赤くする彼女も可愛い――けど、とても嫌な予感。
この流れはきっと「好きな人が出来たの」よね。それでその好きな人と私が仲良くて、その人の情報を求められるっていうパターンね。でも私苗木さん以外に仲良い人なんて居ないわ。

「す、好きな人がいるんだけど…」

ああ、ほらやっぱり。
これで「好きな人は十神君です」なんて言われたらもう私……さっきだって十神君が苗木さんの事好きだって知ってるから厭味ったらしく「苗木さんに呼ばれてる」なんて言ったのに!

「あの、と、…十神クン、なんだ……!」
「…え?」

呆然として、声が漏れてしまった。
それに対して苗木さんは恥ずかしそうにあの名前を呼ぶ。
バクバクとうるさいくらいに鳴っていた心臓も、こんどは冷水をかけられた様にカチカチに固まっていた。

「あの、霧切さん?」

返事のない事に不安になったのか、私の名前を呼ぶ。大丈夫よ、安心して。私が「私も十神君が好き」なんて言い出す訳ないから。
「ごめんなさい、苗木さん。私は…応援できないわ」
「えっ?」

苗木さんが、泣きそうになるのがわかる。
少し罪悪感を感じるけど、ただの相談相手なんて私は嫌なのよ。

「私はあなたが好きなの」

頭を撫でてあげると、ハッとした、と思ったらみるみるうちに顔が赤くなる。
可愛い。

「あなたの気持ちはわかってるわ。だけど…好きで居るくらい、いいでしょう?」
「そ、それは…自由だけど、でも…」
「苗木さん」

私よりもずいぶんと小さい彼女の身体を抱きしめる。
ああやっぱり、私の判断は間違いなんかじゃなかった。




お願いあと3秒だけ、
抱きしめられていてくれますか。










Title by 確かに恋だった 様

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