「愛してる。だから、バイバイ」



4年前に買い換えた携帯電話に
見覚えのある番号のメールが来ていた。

(まさ…か。)

震える指を動かしてメールを開くと
想像していた通りの簡潔な文章で

『戻って来い』

とだけ書いてあった。

たった一言しか書いていないメールなのに
ぽろりぽろりと涙が溢れ出てきた。

(未練、たらたらじゃないの)



何分間そうしていたのだろうか。

携帯電話を握り締めてボーっとしていたら
後ろから「戻って来い」と声がして
心臓が飛び出るくらい跳ね上がった。

慌てて振り向くと夕食の材料を抱えたグラハムが
携帯の画面を覗き込んでいた。


「人のメール覗くなんて悪趣味ね。」

「昔の男からのメールか?」

「…否定はしないわ。肯定もしないけれど。」


私が冗談交じりにそう言うと
グラハムはやれやれ、と言った顔で
重い食材を持って赤くなった手で
そっと私の涙を拭いた。

「そろそろ、かな?」

「何が?」

「リリィが私の元から離れるのが、だよ」

その言葉に動揺すると
グラハムが気づいていた、と呟いた。

「いつから…?」

「リリィが私の前に姿を現してから、かな」

「それって…最初からって事?」

「私を誰だと思っているんだ」

グラハム・エーカーだ!と叫んでいる彼を
冷ややかな目で見ていると
それに気づいた彼がくすりと笑った

「最初は一般人だと思っていたさ」

「そりゃそうでしょ」

「だが、途中で気がついた」

「どうして」

それじゃ分からない。
そう呟くと彼がニヤリと笑った。


「リリィを愛しているからだ」


馬鹿じゃないの。
やっとの思いで搾り出した言葉は
声になる前に塞がれてしまった。

「愛するリリィの傍に居て、幸せだった」

「グラ、ハム…」

「だからリリィも愛する者の所へ行け」

そう言うとグラハムはもう一度私にキスをして
「この決心が変わらないうちに」と笑いながら
私の携帯から勝手にメールを送った。

「だが、全てが終わったら…」

グラハムが何かを言いかけたのを
私は彼の胸倉を掴んで引き寄せる事で止めた。


「愛する人が居て、帰る場所があっても
 私は、この世界が嫌いなの」


グラハム同様あっさりと覆りそうな決心を守る為、
必死に自分に言い聞かせるように言った。
「そうか…」という呟きがずきりと私の胸を刺した。

その時、初めてグラハムの涙を見た気がした。

(行きたく、ない)

喉から出掛かっている言葉を飲み込み
袂を分かつ現実を見ないように強引に彼の唇を奪った。

私からした最初で最後のキスは
しょっぱい涙の味だった。


「愛してる。だから、バイバイ」



「次に会うときは、私を殺してね」


2010.01.15
会える場所に居るのに会えない辛さ




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