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あたしらは無事三年に進級した。春休みは侑士には会われへんかった。侑士は全国を賭けた試合に備えて練習に励んでいたし、あたしはそれを応援していたからだ。

そして、夏。
我らが四天宝寺中学校は九州からやってきた転校生と恐ろしいほどの馬鹿力を持つスーパールーキーの活躍も光り、全国大学への切符を手に入れた。
東京も大会中。侑士と最後に電話をしたのはもう二ヶ月も前のことになっていた。侑士の属する氷帝学園がどこまでいけたのかはわからなかった。侑士とは全くといっていいほど連絡がとれなかったからだ。

「侑士んとこ、全国行かれへんかったらしいわ」

謙也からそれを聞いたのは、侑士に大会の結果を問う内容のメールを送った直後だった。
慌てて電話をしたが、何度呼び出しても無機質なコール音しか聞こえなかった。
侑士から電話が返ってきたのは、その数日後だった。

「…侑士?」
『堪忍な、何回も』
「ええよ。いつものことやん」

心なしか沈んだ声に聞こえた。あたしから切り出すべきなのか、否か。

『全国の話やねんけど』
「え、あ、け…ケンヤに結果聞いてん。氷帝…あかんかったんやってな」
『せや。でもな、開催地推薦枠で出れるようなったんや』
「え!ほ、ほんま!?」
『そんな嘘、つけるかい』

心の底から嬉しかった。もう侑士がテニスをしている姿を、見れなくなってしまうと思った。

「よかったなあ、ほんまに、よかったあ」
『ほんでな、名』

侑士の声が、急に緊張した。
ぴんと雰囲気が張りつめて、思わず背筋を伸ばしてしまう。いい予感、とは言えない。

『ちょっと距離おかへんか』

頭が真っ白になった。今侑士は何を言った?もうすっかり、頭に情報が入ってこない。
距離。こんなに離れているのに、更に距離を、?
振り絞って出した声は、声と呼ぶにはあまりにもお粗末だった。

「なん、で」
『どうしても、倒したい相手がおるんや。せやからな、集中して練習したいねん』
「……」

わかってる。侑士がどれだけテニスが好きで、テニスに打ち込んできたか。昔から見ているから、尚更だ。
わかっているからこそ、すごく悔しくなった。
あたしが侑士にしてあげられるのは見守ることしかない。

『…名、』
「わかった」

声を震わさないように細心をふるった。

「また連絡待ってるわ」
『…すまん』
「気にせんでええよ。その代わり負けたらしばくで」

それから後は何を喋ったかは覚えていない。大阪の空は少し曇っている。もしかしたら雨が降り出すかもしれない。

(…あ)

携帯を閉じて、もうしばらく聞くことは無いであろう、彼のことを思い出した。

(応援行くって、言ってない…)

ベッドに、体を投げ出すように倒れ込んだ。泣きたくなったけど、堪えた。深呼吸をして、湿っぽい空気が入ってきたので、窓を閉めた。






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