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足元がふわふわして、心地いい。水の中にいるような感覚で、名はそこに立ち尽くしていた。というよりは動けなかった。大きく一歩を踏み出そうとしたが、まるで自分の足でないかのように、動かせなかった。名は頭の中で、夢の中かな、となんとなく思った。そこは特に何もない、真っ白な空間で、名の横には、真田がいた。
名が真田の方を見たとき、真田は名の方を見ていなかった。それどころか真田は真っ直ぐ前を見ていた。幼い頃の二人は同じぐらいの背丈だったが、今では頭二つ分違う。従って、真田の視界に名は写らなかった。
真田は歩き出した。名もそれについていった。ただ歩いた。景色は変わらない。真っ白な空間で、気付いたのは、あんなに動かせなかった足が軽々と動かせたこと。
名は、真田に手を伸ばした。小さな手で真田の大きな手を掴む。真田は名に手を掴まれたまま歩き続ける。真っ白な空間は続く。
そこで、名は目が覚めた。


次の朝、学校に行くとテニス部が朝練をしていた。名がそんな時間に登校するのは久しぶりだった。立ち止まって見ると、少し遠い距離からでも、真田が見えた。そして、昨夜の夢を思い出した。無意識に足はテニスコートに向かった。引退した今でも尚、立海のため、後輩のために何かしようという真田。優しいなあ、と名は思った。
立海に入学したとき、名がマネージャーをやりたいと言うとお前には無理だと即答されたのを思い出した。もうあれから約二年が経ち、卒業が近づいている。すっかり葉が茶色に色づき、どこか寂しげだ。
(声掛けちゃえ)
真田の脇に、マネージャーらしき女の子が駆けていった。息が詰まった。真田の名前を呼ぼうにも、声がうまく出せない。向こう側を向いている真田が当然こちらに気付くはずはない。真田はその女の子と話している。苦しい。女の子が名に気付いた。真田が名の方を向いた。名は、泣きたくなった。そして、登校する生徒の中を逆走していった。

110602
心を見失ったら

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