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越前くんと単語テスト

日本人なら日本語をきちんと喋れたらいい。プラスアルファで英語を学んだとしても話せるようになるわけではない。中学高校で六年間学んだ姉は日本語しか話せない。つまり、英語なんて学校でがっつりやらなくてもいいのだ。だから、英単語の小テストなんて完璧じゃなくてもいいと、思っている。
「でも五点ってどうなの?」
「え、越前くんは帰国子女だからそんなの気にしなくてもいいじゃない!」
「採点する身にもなってよ」
隣の席の越前くんは、アメリカ帰りの帰国子女である。英語なんて寝てても喋れる。私とは脳のつくりから違うのだ。…隣どうしで交換する英単語のテストは、いつも申し訳なく思っているけど。
「ごめんね」
「謝るなら単語ぐらいちゃんと覚えたら?」
「英語なんて覚えらんないよ」
「こんなの簡単じゃん」
「じゃあ越前くんが教えてよ」
越前くんが答え合わせのために開いていた単語帳を閉じて、答案用紙を差し出した。赤いペンで大きく5、と書かれている。数字の下のまだまだだね、というメッセージと一緒に。
「これぐらい休み時間で覚えられるでしょ」
「よーし、明日からよろしくね!」
私は越前くんの完璧なテスト用紙に、大きくハナマルをつけて返した。越前くんはそれを見て、笑った。
「なにこれ」
「なに、って、ハナマルだよ」
「ふうん。日本ってこんなのあるんだ」
「アメリカは無かったの?」
「マルとバツも逆だったし」
「へえぇ、真逆なんだ。すごいね」
越前くんはまだ私が書いたハナマルから目を離さない。あまりにも物珍しげに見るから、なんだか越前くんがすごくかわいくみえる。普段はクールでかっこいいのに。
「アメリカと日本ってやっぱり文化とか違うんだね」
と言うと、
「海越えてんだから当たり前じゃん」
バカじゃない、とは言わなかったけれどそういう風に聞こえた。私はどこまでもバカ扱いされてしまうようだ。
「ごめんねー私バカで」
「いいんじゃない、バカで」
「え?」答案用紙が後ろから回されてきた。それに自分のを重ねて、また前に回す。そしてすぐさま越前くんの方を見た。
「バカな子ほどかわいい、だっけ?」
「か、かわっ…!?」
いやいや、意味をよく考えろ私。これはバカにされてるでしょう。確実に。びっくりして越前くんをガン見してしまった。越前くんは何もなかったように前を向いて、眠そうに欠伸をした。意味と状況を飲み込めていない私は、ただ呆然としていた。


110221
これが夢なものか



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ハナマルぐらい親父が教えてそうですがね

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