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「眠れないの」
幼い頃、こういうことがよくあった。その度に私は彼の元へ行く。すると彼はあたたかいハーブティーを入れてくれる。そしてとりとめのない話をして、彼と共に眠る。朝になると私の家は大騒ぎで、お母さんがよく謝りに来ていた。
「そこに座ってて」
中学に入ってもそれは同じで、ただ数を重ねすぎたのか私専用のカップやお箸まで用意されるようになっていた。
高校はお互いばらばらになって、話すどころか顔を見ることすら少なくなった。私には彼氏ができて、たぶん周助にも彼女ができたのだろう。彼は中学から女の子のファンが多かったから、きっと高校でももてている。自然と、私たちの距離は開いていった。
それでも私専用のカップはまだ健在で、それに周助は手際よくハーブティーを入れる。懐かしいな。なんだか頬が緩くなる。
「どうしたの?」
「懐かしいな、って思って」
「そうだね。名が最後に来たのはいつだっけ」
「中学の卒業式かなあ。周助と離れるのが寂しいって言った気がする」
懐かしいカップが私の前に出される。昔と同じように周助は私の前に座って、私の話を笑って聞く。
「そんなこと言って、彼氏つくって楽しくやってたくせに」
「そんなの、周助も同じでしょ?」
「僕は彼女がいたことなんてないよ」
「うそだあ」
「ほんとだって」
周助は困った顔で笑う。何もかもが、昔と同じ。カップも、ハーブティーも、周助も。優しくてふわふわやわらかな空気が流れる。
「好きな子は?いないの?」
「うーん…僕が好きになるなら名しかあり得ないんだけど」
「周助、口がうまくなったね」
「そう?割と本気なんだけどな」
周助は、普段にこにこ笑っているだけに、たまに見せる真顔がすごく怖い。とゆうか、どきっ、とする。心臓をつかまれるような、と言えば表現は怖いけれど、まさにそんな感じ。ぜんぶお見通し、っていう感じ。だから、今の私はまさしく蛇に睨まれたカエル。
「…私彼氏いるよ」
「うん。知ってる」
「周助のこと傷つけたくないの」
「名は優しいからね」
「撤回、して」
「嫌だよ。名が昔みたいに僕のところに来てくれたんだから」
怖い。怖いはずなのに、私、ドキドキしてる。周助のこと、かっこいいと思ってる。周助が、私の頭を、心を、浸食して、いく。
「君を奪ってでも手に入れる」


110216
恋心というのは厄介だなあ

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