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キスをされた、

特に接点があるわけでもなかった。同じクラスのテニス部のやつの後輩。そのテニス部のやつと私は別に仲がいいわけではない。いろいろとめんどくさそうなので。ファンクラブ的な意味で。
「…あの、すんません」
教室移動で、二年生の階に来たときだった。あまりにも突然で、びっくりして睨んでしまった。彼はそんなにびっくりしてなかったけど。
「ノート落としてはりますけど」
差し出されたのは確かに私のノートだった。あら、これはこれはご丁寧にありがとうございます。
「俺、ザイゼン言うんです」
ぜんざいみたいな名前しやがって。と思った。五色のピアスをみっつとふたつにわけて着けているのが見えた。ヤンキーかっちゅーの。オリンピックリスペクトなヤンキーかっちゅーの。
「ケンヤさんとかと同じテニス部なんですわ」
ケンヤって誰だったっけ…。ぼんやり考える。テニス部。うちのクラスのテニス部はふたり。白石くんと忍足くん。どっちかか。
「…授業あるんやけど、いい?」
テニス部ならこのザイゼンくん?にもファンクラブとかがあるのだろう。よく見れば、かっこいいし。よく見なくてもかっこいい。でもできれば関わり合いたくないので、話しかけないでいただきたい。そう思って、私はこの場から逃げようとした。が、どうやらそれが彼の心の何かに火を付けたらしく、ザイゼンくんが私の腕を引き、ロッカーの陰に連れ込まれ、壁に押さえつけられて顔が近づく。唇が触れた。その間3秒。

そして冒頭に戻る。
「…何なん自分」
「いや、したなったんで」
「いやいや意味わからんし。授業始まってもうたし」
「ええやないっすか。一緒にさぼりましょ」
何が楽しくて受験生が授業をさぼらなくてはいけないのか。しかも、どこの馬の骨かわからんやつと。まだ私は壁とザイゼンくんにサンドイッチされている。ザイゼンイッチか、て全然うまないわ。
「キスしたなったんやったらケンヤさんとしたらええやん」
「俺そっちの趣味はないっすわ」
「あっそう。私授業行くから手ぇ離して」
「イヤ」
めんど。やっぱりテニス部と関わったらロクなことがない。ため息が出た。腕を掴むザイゼンくんの手に力が入って、とりあえず私は彼を睨んでみた。残念なイケメンっていうやつか。
「名さん、せっかく見つけたのに離すのもったいないもん」
なんで名前知ってるの、とかはさっきノート見たからか。
「好きっす」
一瞬切なそうなザイゼンくんにきゅんとした、気がした。
「ずっと前から好きやったんです」
ザイゼンくんの顔がもう一度近づく。第2ラウンド突入だと、このイケメン。掴まれていない片方の手は空いているのに、抵抗のようすを見せない。それどころかザイゼンくんの首に回っているではないか。

あれ、私はいつのまに彼を受け入れてしまったんだ?


110116
残酷だけど幸せな現実だと思う

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