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携帯を握りしめて、来たる時に向けて準備中である。

ただいまの時刻、23:36。





遡ること、一週間前。

「なあ、俺の誕生日知ってる?」
「え」

もちろんだった。
好きな人のデータなんてばっちりすべて知っている。まあ、大人気男子テニス部のデータなんていろんな子に聞けばすぐに調べられるけど。

ときめいた。
それは数学のわからなかったところを聞いていたとき。

方程式は全部ぶっ飛んだ。

それよりも忍足の言葉がループ。わたしに何かを聞いてくれたのは初めて、のはず。

「聞いてる?姓」
「えっうん!来週だよね?」

わたしは自然に言えただろうか。忍足に名字を呼ばれた。わたしの名前ってこんなにすてきな響きだったんだ。どういう顔で答えたらいいのかわからない。今のわたしはきっとすっごく微妙な表情をしている。

「へぇ。知ってたんや」
「うん、あの、忍足のこと好きな子が言ってたから」
「ふーん」

そう言いながら忍足の目線がわたしのノートに向けられる。シャッ、と音をたてて矢印がひかれる。

「ここ、ちゃう」
「なんで?」
「簡単な計算ミス。集中してへんかったやろ?」
「眠くて…ついつい」

眠いなんて嘘だった。
忍足のことを考えてました、なんて言えない。絶対、引く。

「なあ、姓」
「何?」
「メールして欲しいねん。15日」
「は…何を?何かを忘れないように?」
「ちゃうて、誕生日おめでとうって、メール欲しい」

あまりの衝撃に、世界に忍足しか見えなくなった。鈍器で殴られたような感覚?いや、これは悲しい衝撃だっただろうか。この際なんでもいい。

とりあえず人生最大の衝撃。

赤外線から送られたアドレス帳の忍足侑士の文字を見つめながら、にやけそうになるのを必死でこらえた。

「楽しみにしてるで」

その笑顔はいったい何人の女の人をクラクラさせてきたのでしょう。





まあ、そんなこんなであと五分。女の子を気取ったデコメールを送ってやる。実は三日前から準備していました。恥ずかしい。遠足前日の小学生みたいだ。

11:58。

12:00。

送信。

「わたししんだ!」

大きい独り言を叫んで、ベッドにダイブ。瞬間、携帯が震える。

「はい!」
『俺。やっぱり声聞きたなったわ』
「だれ!忍足!?」
『姓、元気やなぁ』

携帯の向こうで忍足が喋っている。それだけで嬉しかった。変態でも構わない。忍足の声が低すぎてぞわぞわする。

「忍足声低いね」
『姓の声が高いんやで』
「えー違うよー」
『いーや、絶対そうや。女の子やねんから当たり前やけどな』

忍足の一言ひとことにキュンキュンする。恋する乙女って感じ。

「じゃあ忍足も男の子だから低いんだね」
『そうやね。俺、姓の声好きやわ』
「えっ」
『何びっくりしてんの』
「あ、いや、何でもない、ごめんね」
『まあそんな姓もかわいいけどなぁ』
「えっ!」
『はは、またびっくりしてる』
「もうっ」
『ごめんごめん。俺姓のこと好きやから、いじめたくなるねん』

頭が真っ白になった。

「えっちょっと忍足?」
『よう言うやろー、愛情の裏返しって』
「言うけど、え?」
『返事は?』
「…わたしもすきです…」
『ええ返事や』

仕組まれた感が否めない。だけどこの感覚は確かだから、とりあえず明日、いや今日、学校で会えば夢かどうかわかるだろう。

「…忍足、誕生日おめでとう」
『ありがとう、名』

できれば夢でなければ嬉しい。



20101015








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