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「なんで千歳と財前くんにしか見えへんのやろ」
雪がちらつく中、名は思い出したようにぼそっと言った。
「神様の気まぐれっちゅーやつじゃなか?」
「曖昧。35点」
厳しいっちゃね。苦笑すると名は笑った。そしてすぐに笑いをやめた。神様の気まぐれ。自分で言ってあきれた。神様とやらがいるなら、どうして名をこんな目に合わせたのだろう。どうして名が死ななければいけなかったのだろう。俺たちふたりにしあわせを与えてはくれない神様なんて、信じてなどいない。
「名のことが好きな人には見えるとか」
「嫌や、そんなんやったら、わたしめっちゃ嫌われ者やん」
「…恋愛として、とか」
沈黙。
「…無いよ、そんなん」
「…うん。無い」
「ややこしいやん、そういう考え」
「たまたまやね、たまたま」
「そう。たまたまや」
名はぴったりと俺の腕にひっつく。感触はない。もどかしい。そこにいるのにいないような。
「別に千歳だけでよかったのに」
「でも財前が名のこと見えんかったら、俺気ー狂っとる思われとったばい」
「あはは、ええやん。それはそれで」
そうかもしれない。他の奴らに名が見えようが見えまいが別にどうでもよかったのかもしれない。
「…わたし、千歳に会いに幽霊になったんやと思う」
あまりにも優しい顔で言うから、泣きそうになった。触れることはできない。わかっていたけれど、抱き締めたくてはしかたなかった。腕が動きそうになるのをこらえる。キスの真似事をした。唇に何か当たった気がした。たぶん、気持ち、だけ。
「最期までおってね、千歳」
泣く代わりに笑い合った。二人とも。

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