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風邪をひいた。起きあがることすら面倒だ。熱を持った体は、やけに重たい。よっこいしょ、と年をとったおばさんのようにベッドから起きあがる。あーあ、今日は蓮二とお出かけする予定だったのに。とりあえず蓮二にメールだ。風邪ひいたから、今日行けなくなっちゃった。ごめんね。絵文字もつけずに送信。瞬間、私は眠りに落ちた。

どれくらい眠ったのだろう。額には冷えピタが貼られていて、机にはビニール袋に入ったポカリの缶がたくさんある。そして、座椅子には蓮二が座って本を読んでいた。
「れんじ、どうして」
「家の鍵ぐらい掛けてから寝ろ」
「…はい」
「大学生になってまで風邪をひくとはな」
「えへへ…」
「風邪を引くなら日を選べ」
「…ごめんなさい」
ふう、と呆れたようにため息をついた蓮二は私のほっぺたに手を当てた。蓮二の手は冷たくて気持ちいい。
「まだ熱がありそうだな」
するりとほっぺたから手を離して、蓮二はどこかへ行ってしまった。と思ったらすぐに戻ってきた。何を持っているのだろう。私の頭を少し持ち上げて、持ってきたそれを置いた。冷たい。でも気持ちいい。氷まくらだ。
「気持ちぃー」
「何か食べたいものはあるか?」
「えっとねー」
「大満足みかん?」
「それ!」
私の考えを当てたあとに蓮二は笑う。してやったり、みたいな顔で。その顔がかっこよくて、ときめいてしまう。蓮二はくしゃりと私の頭を撫でた。財布を持って立つ。え、今から買いに行くの?
「他には無いか?」
え、本当に行っちゃうの?私は気付いたら布団から手を伸ばして、蓮二のズボンを掴んでいた。蓮二は驚いたようで、少し目を見開いて私を見ている。
「…やだ」
大満足みかんもいらない。何にも欲しいものはない。わたしはただ蓮二がそばにいることが嬉しいの。熱のせいで頭がおかしくなってるのかもしれない。蓮二は何も言わない。掠れる声を絞り出して、いかないで、と言った。蓮二は呆れただろうか。目尻が熱くなってきた。頭もふわふわする。ああ、このまま眠ってしまいそう。
「どうしてお前は、…」
一度頭に台詞を浮かべてから話すような、あの蓮二が、言葉を詰まらせた。
「…いや、何でもない」
「え、なに、なんなの」
「何でもないと言っているだろう」
「え、気になる!」
「病人は寝ていろ」
心なしか、蓮二が照れているような気がする。
「…大満足みかんはいらないんだな」
あ、え、もしかして私のわがままを聞いてくれた?ちょっとだけ蓮二の耳が赤い。照れてるんだ。普段そんな恥ずかしいことをしないもんだから。
「…蓮二」
「何だ」
「蓮二、かわいいね」
蓮二は何も言わずに私の乾いた冷えピタを剥がしてそのまま冷蔵庫のほうへ行ってしまった。今日デート行けなくてよかったかも、とは蓮二に口が裂けても言えない。




110110
手を伸ばせば届く距離が好き












柳に大満足みかんって言ってほしかった




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