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侑士(27)と高校生(18)


わたしの年上の彼氏はお医者さんである。お医者さんといえばなんかやらしく聞こえる気がしないでもない。まあ実際彼はやらしいけど(見た目とか目とか声とか)、そういうやらしいことは実際にしたことがない。わたしがまだ学生だからと言ってそういうことはおろかチューさえしてくれない。見た目とは裏腹に真面目なのだ。まあわたしはそういうギャップに惚れてしまったわけである。でもあまりにもそういうことが無さすぎて最早いっしょにいるだけ?彼にとってわたしは何なのか?と哲学的に考えてしまうのである。
「忍足さん、チューしようよ」
「あかん」
「忍足さーんチューしたいよー」
珍しく彼が自分の家に呼んでくれたから、いよいよか、と覚悟を決めてきたのだが、彼はリビングの大きなソファーに座って新聞を読んだりテレビを見たりする。わたし隣に座ってみたり覗き込んでみたり後ろから抱きついてみたりするが、彼は一向に仏頂面というかなんというか。そりゃあ、彼よりもずっと子供だし、色気の欠片も無いけど、一応彼女なんだし、こう、ちょっとくらいムラムラッときてもいいんじゃない?
「…ムラムラしないの?」
「は?」
「そりゃあわたし、子供だけど。忍足さんとそういうことしたくないわけじゃないんだよ」
は?ってなんなの、は?って。コーヒーこぼれてますけど。高いカーペットにシミついちゃうよ。どうしてそんな呆然とした顔をするの。わたしだって真剣なのに。なんか腹立ってきた。怒ってるはずなのに、泣けてきた。止まれ止まれ止まれ。泣きたいわけじゃない。泣きに来たんじゃない。忍足さんに色仕掛けをするって意気込んで来たのに、これじゃあただの子供だ。忍足さんだって呆れるよ。
「…名」
「わたしは忍足さんに必要?何かしてあげれてる?」
忍足さんは新聞を置いて、テレビを消した。向き合ってくれている。こんな子供に。忍足さんの右手がわたしの左手を掴んだ。そのまま優しくふかふかのソファーに誘導され、忍足さんが優しくわたしの頭を撫でた。未だ子供みたいに泣くわたしを宥めてくれる。わたしはまた、忍足さんの優しさに甘えている。
「そんなん言いな」
低くて甘ったるい声が耳に通る。忍足さんの顔をまともに見れない。
「名は俺にとって必要やし、おるだけで癒されるねん」忍足さんは続ける。「せやからあんまりむやみやたらに手ぇ出したないんや」
「…チューぐらいいいじゃん」
「止まらへんなるやろ」
優しく、忍足さんはわたしを抱きしめる。わたしはどうしてこんなに子供なんだろう。嫌になる。彼はわたしが忍足さんにこうされると弱いのを知っている。忍足さんに包まれていると全てがどうでもよくなるのだ。でもいい。こうやって優しく抱きしめられている間は、なんでもいい。
「じゃあ、侑士さんって呼びたい」
「あかん」
「なんでっ」
忍足さんが喉を鳴らして笑う。
「結婚したらええよ」
言葉が飲み込めず、わたしはしばらく呆然としていた。




110104
いっそ溶けてなくなってしまえばいい






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