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「ちーとせ」
「名。どげんしたと?」
「千歳探しとってん」
にっこりと笑う名。俺も笑い返す。雪の降り積もった裏山には誰もいない。誰も来るはずがない。妙な確信がある。猫の子一匹現れないだろう。しあわせそうに歩く名と、俺。かつて当たり前にあった日常を取り戻したようだ。
今、ここはふたりだけの世界。
「雪、溶けへんかったらええのに」
「名は雪が好きやね」
「ちっちゃいときにな、雪の結晶見てん。あんな綺麗なキラキラがいっぱいなんやなあ、って。それから、雪が好きになってん」
まるで世界中のしあわせをぜんぶおすそわけしてもらったみたいに、しあわせだった。雪を見て笑う名がかわいらしくて、手をのばしたけれど、すぐに引いた。現実に引き戻されそうだった。
「雪だるま作ろう、千歳」
「こげん雪やったらちいこいのしか作れんよ」
「ええの!ちっこくても雪だるまは雪だるま!」
子供みたいに駄々をこねる名に押されて、俺は小さい雪玉をふたつ、つくり始めた。木の枝の腕に、石の目。あまりにも簡単な雪だるまに、思わず軽い笑いがこみ上げる。
「あはは、ぶさいく」
昨日泣いて取り乱したのが嘘のように、名は笑う。雪の中で笑うと、いっそう儚く見える。
「千歳ってこういうの得意そうやのに」
「小さいときは得意やったばい。ばってん、今日久しぶりに作ったと」
そんなん言い訳やわ、名は笑う。それにつられて、俺も笑う。
「あ、また雪や」
「最近多いっちゃ」
「珍しいなあ」
ちらちらと雪が舞う。見上げると、真っ白な空が広がって、そこから雪が落ちてくる。きれいだ。見上げていると重力を忘れてしまいそうになる。いっそこのまま二人とも飛んでいけたら幸せなのに。

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