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「おい千歳、何してんねん」
「…白石、小石川…」
「みんなでお前のこと探しとったんや。一人でふらふらすんな」
「…名が、帰ってきたと」
「は?」
「今、ここにおるばい」
ふたりは顔を見合わせる。
まるで信じられないと言うように。
「千歳、辛いんはわかるけど、」
「…目ェ覚ませや」
白石が、俺の胸倉を掴んだ。名の体をすり抜けて、壁に叩きつけられる。
「名がそこにおる。お前らには見えんと?」
「お前、頭おかしなったんちゃうか」
「本当ったい…白石の横におるばい」
白石の手は緩み、重力に従って俺の体はずるずると下に落ちる。座り込む形となったが、立つ気力はなかった。
名の顔はよく見えない。暗いのもある。白石で隠れているのもある。
「認めぇ、千歳。…名をここで見つけたんは、お前やろ…?」
名が、すっと俺の前に来て、手を俺の頬あたりにやった。悲しい顔で。普段きっちり着ない制服にぽたりと滴が落ちる。…俺は、泣いている?
「名が、慰めてくれとる」
「千歳」
「おるんよ、ここに。名が」
哀れむなら、そうすればいい。俺にとっては現実に、名がここにいるのだから。幽霊でもなんでもいい、名がいる。
「白石、もうすぐ謙也らもここ来るで」
「…もうちょい、待と」
こんなに泣いたのははじめてかもしれない。今朝には感じなかった喪失感。心にぽっかりと穴が空いたというのはまさにこういうことなのだろう。
「白石!」
「…謙也、財前」
ふたりとも、ひどく驚いた顔をしていた。別に気にならなかった。
名は俺の前でまだ悲しい顔をしている。どうしてわからないのだろう。こんなにはっきりと、ここに存在しているのに。
「……部長」
「なんや、財前」
「…何で名さんがおるんすか」

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