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今夜はとびきり冷え込むらしい。だから夜に備えてマフラーにダッフルに帽子に手袋の完全防御。ちょっと雰囲気を出そうとふわふわひらひらなスカートを履いてきたのは間違いだったかもしれない。いつもみたいにジャージで来ればよかった。
とは言っても時既に遅し。待ち合わせ場所のコンビニに千歳は来ていた。
「スウェットてどないよ」
「そげんこつ言われても、自分ちでおしゃれしても意味なか」
「まあ、確かにそうやけど」
実は初めてのお家デートだったりする。だからちょっと、ほんのちょっとだけ身だしなみに気をつけてきたのだが、この男、背が高いから見えないのかしれないが、わたしの服装に触れもしない。いつもジャージか制服ばかりだから特に目線は行かないってか。
なんか、腹立つ。
「おでん買うばい」
「チキンにせえへん?」
「なんでっちゃ」
「…えー…」
千歳のくるくるな頭の中は知らないが、世の中は、今日、クリスマスなのだ。コンビニですらチキンのセット売りやらケーキご予約受付中やら、とにかくクリスマスで溢れている。
千歳が転校してくる前のクリスマスはただ家でごろごろしているだけだった。今年も家でごろごろ、かもしれないけど、自分の家じゃなくて彼氏の家なのだ。しかも一人暮らしの!
そりゃあ服にも気合いが入る。女の子にとってクリスマスは割と大きなイベント事なのですよ、千歳くん。
「…腹でも痛か?」
「別に痛ない」
「何怒っとるっちゃ」
「怒ってへん」
「怒っとるよ」
「怒ってへんって」
「クリスマスケーキなら家にあるばい。心配しなさんな」
え、とあたしがチキンから千歳に目線を向けると、千歳はふらっとどこかへ行ってしまった。
「ちとせー」
「何ね」
「チキン食べたい」
「後でケンタッキー行くばい」
「いっぱいやで、今日」
「ならローソンでよか?」
「なんでもいい」
「ん」
「あたしもおでん食べよかな」
ローソンはなんかうきうきしたクリスマスっぽい音楽が流れている。クリスマスにコンビニでおでんとチキンというステキな組み合わせを買う、しかもカップルは、あたしらぐらいだろうな。
どこかのちょっと高いレストランを予約して、指輪とか貰ったりして、チューとかしちゃったりして。
ドラマのようなことを考えたりしたけれど、現実はそんなことにはならない。
むしろ、毎日部活行ってるかどっかをふらふらしてる千歳とゆっくり過ごせるだけで、じゅうぶん幸せなのですよ。
「手ぇ繋いで帰ろ」
「お前さんから言い出してくるのは珍しいっちゃね」
「クリスマスやからええかなと思いまして」
「ああ、お前さんがスカート履いてんのはクリスマスやからか」
「……そんなん、千歳のスウェットのがおかしいやろ」
「俺別におかしいとか言うとらん。むぞらしかよ」
真顔で、目を合わせられて、さらっと言われてしまうと、余計に恥ずかしい。自然に左手の袋を見た。千歳の顔が見れない。
「……どうも…」
「ばってん、外におったら俺以外にも見られるばい、早よう帰っと」
歩きかけた千歳の足が止まった。
「荷物貸しなっせ」
荷物を奪われるように取られた。千歳の歩幅が大きくて、転びそうになったけれど、千歳と手を繋いでいたおかげでなんとか持ちこたえた。早足で歩くあたしをよそに、千歳は先に先に進む。千歳の手は熱かった。




101225クリスマスキャロル

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