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今俺の目の前で泣いているのは俺の恋人で、守るべき存在であった。当然、というのは変かもしれないが、愛している。それなのにどうしてその子を俺はぼんやりと眺めているのだろう。まるで第三者。彼女はひどく泣いているのに、俺の心はひどく落ち着いている。

「…泣きやみんしゃい」

手を伸ばそうとしたが、彼女が手で覆っていた顔をぱっと上げ、強い眼差しでこっちを見た。手は中途半端に上がって止まった。

「どうすればわたしを好きになってくれる?」目は合っていたはずなのにのぞき込むことはできなかった。ただ見ているだけだった。

「お前さんのことが一番じゃき」と言うと、速攻で「嘘」と返ってきた。本当なんじゃがなあ。頭の中でぼんやりと考えた。が、彼女は信じてはくれなかった。

化粧もしていないきれいな肌を、涙が伝う。ぽたり、と一粒床に落ちた。綺麗に泣くもんだ。ずっと見ていたいかもしれない。意識するわけでもなく、口角が上がる。「いやなの、もう、いや」目線が下へ向いた。涙は頬を伝わず、そのまま床に落ちていく。あーあ、もったいない。

「わたし、あなたが思っているよりも傷つきやすいのよ」彼女はすぐに続けた。「あなたが女の子と喋ってるだけで嫌だし、一緒に歩いてるだけでも嫌。わたしだけがあなたをひとりじめしたいの」

黒い瞳が一瞬俺を見た、そして俺の無機質な目を見て、すぐに下を向いた。

涙はどこからともなく溢れてくる。そこでようやく、俺は流れ続ける涙に触れることができた。人差し指で掬った涙はなんだかやけに冷たかった。止まらない。次第に人差し指を伝って手のひらを濡らした。「泣きやみんしゃい」もう一度言った。泣きやまない。言っていることは真実なのに。「まさはるくんは、わたしがすき?」嗚咽を交えて言った。「もちろんじゃ。お前さんのためならなんでもするぜよ」と俺が言った。「ほんと?」彼女はにっこり笑った。手のひらはまだ湿っている。




101227
かみさまの名前




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