text | ナノ

20101231
君に恋い焦がれる



寒さで冷たくなった片手をお互いであたためあいながら歩く。ときどき場所を入れ替わって両方の手をあたためあった。主にあたためられているのはわたしのちいさい手で、おおきな千歳の手は必然的に表面にさらされて冷たくなる。だからときどき千歳は、なんにも言わずにわたしの手を繋いだままポケットに手をいれた。あったかい。熱いくらいだ。

わたしたちは別にあてがあるわけでもなく、ただ歩いた。空は変に白く明るく、ちらちらと雪が降り出してすらいる。不意に、大阪は雪が積もらんね、と千歳が言った。わたしはそうやね、と言った。ふたりともそんなに話はしなかった。ただ手を繋いで歩いていた。大晦日で盛り上がる商店街の脇を通り、静かな公園の自販機でふたつ、暖かいココアを買った。まだ空けていないココアの缶を頬に当てると自然に目を閉じた。暖かい。ため息が出た。目を開けると千歳がこっちを見ていた。どうしたん、と聞くと、むぞらしか思って、とだけ答えた。笑って流した。千歳がそう言うときはキスしたい、というときなのだ。

頬からココアの缶を離して、わたしは千歳の瞳をのぞき込んだ。千歳は少しだけびっくりしていた。そういえばわたしから千歳の目をじっと見たのは久しぶりかもしれない。そんな風にわたしたちは妙に明るい公園でしばらく見つめ合っていた。他人から見れば奇妙だっただろう。でもわたしたちにとっては、厳かで、なんだか神聖な儀式みたいだった。そしてそのあと、どちらかが言い出すわけでもなく、身を寄せ合って、抱き合った。

あとでケーキ屋さんに行きたい、と言うと、頭に顎を乗せて、千歳は優しくわかったばい、と言った。わたしは馬刺も買いに行かな、と言った。「愛されとるね」千歳がわたしを抱きしめ直したので、わたしは千歳を見上げてみた。


「ケーキな、1ホール予約してあるねん」
「そんなに食べれると?」
「ちっちゃいからいけるよ、たぶん。あ、馬刺、スーパーのでもいい?」
「何でもよかよ」
「千歳の家って飲むもんある?」
「茶ーくらいなら」
「あと、千歳、」
「ん?」
「ちゅーしたい」
「大歓迎ばい」
「千歳の家でな」
「家とか途中で止めれんっちゃ」
「それはちょっと、」
「えええ、生殺しばい」
「それより」
「なんね?」
「千歳、誕生日おめでとう」
「はは、照れるばい」


千歳は幸せそうにはにかんだ。なんだか恥ずかしくなって、わたしは千歳の腕からなんとか抜け出して、少しぬるくなったココアを飲んだ。


ちと誕!さまに提出。

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