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しばらくそこに立ち尽くしていた。薄暗い部室内だが、名の姿がはっきりと見える。
そうだ、すべてが嘘だったのだ、名が死んだなんて、嘘に決まっている。ああ、すべて夢だったんだ!
自然と口元は笑っていた。
「名?」
名は何も喋らず、ただただ後ずさる。その表情は恐怖、というよりは、何かに怯えているような、そんな表情だった。
「なして、逃げっと」
涙を浮かべて、首を振る。
「名、」
両手で耳を塞ぐようにして、首を振る。
「名、死んだなんて嘘やったっと?」
名はただ、首を振る。
「なして、ここにおるっちゃ」
「わ、からへん」
声すらも、名だった。
名に、近づく。今度は後ろに下がらない。近づく。手を伸ばす。
俺の手は、名の頬をすり抜けた。
声が出なくなった。
これは、現実?
確かに名に触れようとした手に、感覚は残っていない。
「やっぱり、あたし、死んでん」
「嘘、」
「嘘ちゃうよ、だってそうやろ?生きてたら千歳に触れるやん!」
「…名」
「もう嫌や、何であたしこんなとこにいてんの?どうしたらええん?」
混乱している。どうしたらいい?俺だってわからない。名は、俗に言う、幽霊となったのか。どうしてここにいる?何をするために?
どうしたらいいかわからなかったのは俺も同じだった。文字通り名を腕の中に入れた。パントマイムをするかのように。
触れた感触は皆無だった。ただ空気を抱きしめているような気分だった。

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