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距離にしておよそ五百五十キロ。新幹線にしておよそ二時間半。

遠いものだ。たかが中学生同士の遠距離恋愛如きに。それでも飽きることなく思い続けることができるのはどうしてだろう。

それは、きっと彼が運命の人、というやつだからだ。

陳腐な言葉だがあたしにはそうとしか思えなかった。子供は子供なりに必死なのだ。お互いの想いを繋げようと。

『どないしたん。名から掛けてくるなんて変やなあ…そっちは大雨やろ?』
「うるさいわあほゆーし」
『酷い子やなあ』

緊張している。
ただ話をしているだけなのに。いや、話をするのはいつぶりだろうか。

彼は笑っている。
電話の向こうではどんなふうに笑っているのだろう。笑っている声はたくさん聞いた。少し苛立った声も、眠そうな声も。

どんな表情で電話をしているんだろう。電話の向こうの彼は、何をしていて、何が食べたくて、どういう気持ちで電話しているんだろう。

顔が見たい。
顔を見合わせて、話したい。
なんて、子供みたいだ。駄々をこねる子供と同じ。

『で、どないしたん』
「いや、特に何も無いんやけどね」
『ふーん?』

仲良さげに歩くカップルを避けながら歩く。人混みの中でも侑士の声は届く。空間が切り取られたようだ。他の音はもはやただの雑音にしかなっていない。

『一人?』
「うん」
『やったら早よ帰り。もう遅いんやからおばちゃん心配しはるで』

優しい声。ビルのデジタル時計は午後七時を知らせていた。

「これから塾なんですー」
『塾?そんなん行ってたっけ?』
「行き始めてん」
『へぇ。名ってそんな頭悪かったんや』
「いやいやちょっと志望校がレベル高くて」
『どこ受けるん?』
「氷帝」
『嘘つくな』
「ごめん」

えへ、なんてちょっとぶりっこしてみると、きしょいわ、なんて言葉が返ってくる。侑士と喋るのは緊張するけど気が楽。自然と顔が綻んで、優しいきもちになる。

「…ゆーし」
『んー』
「あいたい、なー」

息が詰まった。
こんな恥ずかしいことを言ったのは初めてだったし、何より言った瞬間にあたしは言ったことを後悔した。

現に言葉が返ってこない。

かわりにどくんどくんと心臓が鳴っている。

「…じゃーもう着いたから切るわ」

嘘ついた。

『ちょ、待てや』
「な、なによ」

あつい。真冬なのに、血が沸騰しているようだ。足元も、おぼつかない気がする。ふわふわしている。

『…おれも、名にあいたい』

──じゃあ。またメールするわ

一方的だった。彼はどんな気持ちで言ったのだろう。ふわふわした気持ちなのだろうか。血が沸騰するくらい熱いのだろうか。


とにもかくにも、勉強に身が入らないことは確実だった。


それは、まだまだ寒い中二の十二月はじめ頃。




ノスタルジック・ラブ





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