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「せんぱい」

教室移動の途中だった。下から聞こえた間延びした声と明るい髪の色が目に入って、階段を降りる足を止める。わたしよりも二十センチ以上背の高い利央が、今はわたしと同じ目線でニコニコしてこっちを見ている。階段四段分の距離。

「どこ行くの?」
「調理室だよ」
「調理実習?」
「うん。スイートポテトつくるの」
「うまそぉー!」

おれにもちょーだい、と言わなくても、彼のきらきらした目から伝わってくる。光の入りにくいこの階段でも、彼の色素の薄い髪は目立つ。ひだまりのように暖かい色をしている。まるで利央そのものだ。

「だめ」
「なんでェ!?」
「利央にだけあげれないでしょ?」

野球部のみんなの分は無いなあ、と言うと、頬を膨らませて俯く。そんな彼はさながら子供のようで、とてもかわいらしい。男の子には失礼かもしれないけれど、ときどき彼をかわいらしいと思ってしまう。

「せんぱいにとって野球部はみんな平等?」
「うーん、そうだなあ」
「じゃあ名せんぱいの一番になれればいいの?」

いつもとは違う、わたしを見上げる利央に、思わず階段を一段上がる。同時に利央も一段上がる。広がらないけれど縮まらない四段分の距離。
距離を離したつもりなのに、また縮まる。何にも喋らない利央は、凄みを感じる。

「おれは、せんぱいが一番なんだよ」

利央が一段上がる。わたしも上がる。気づくと踊り場だった。彼とわたしの身長差はいつもと同じ二十センチ。長い腕がわたしの背中に回って、彼の胸に押し当てられた。どくんどくん、鼓動が早い。

「りおう」
「…なに?」
「どきどきしてる」
「当たり前でしょお」
「ふふ、わたしも」

利央の優しいにおいに目を瞑りながら、わたしは利央の大きな背中に手を回した。

「…お昼に、あげるよ。スイートポテト」
「……それって」

目をキラキラさせた利央が容易に想像がつく。どうやらわたしはこのキラキラに、自分が思っていた以上にのめり込んでしまっていたらしい。












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