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白石に激励をいただいたあと、侑士への弁解メールを打ち出した、が、如何せんボキャブラリーの少ないあたしはただメールを打つのに二十分もかかっていた。

《一人で怒ってごめん。部活頑張って》

よそよそしい。意味わからへん。

打っては消して、消しては打って。そんなんをずっと繰り返している。

(だいたいケンカした訳ちゃうやん。でもなんや雰囲気悪いやん。なんか言わな、これでスルーしてもうたら終わってまう、)

あたしたちには電話やメールしか無いのだ。手紙もあるけど。まあ、とにかく、直接会えることは無いに近いくらいやから、思ったことはすぐに言わな、ケンカしたらすぐに謝らな、千切れてしまいそうになる。細い糸みたいなものやから。

(どないしよ、)

ぼんやりとした頭でほぼ何も考えずに打った。《電話してもいい?》あたしは画面上の言葉だけでなんて表現できない。





名はときどき、ちっさいことでさえ一人で抱え込むことがある。せやから、今日のメールがちょっとおかしかったんは、俺だけ大阪に帰らへんからちょっと拗ねてしもたんかな、て思ってる。だいたい謙也が言うからや。スピードスターてなんでもかんでも早けりゃええと思っとんちゃうぞ。人生待つことも大事なんや、との意味をこめて、いざという時のために撮り貯めておいたじっくりことこと煮込んだスープのパッケージ画像を添付してやった。

よう半年ももってるわ。ずっと会われへんのに。名はきっと辛いやろうに。いや、それは俺も同じか。会われへんのは、割と、辛い。カタン、と寂しげにロッカーの閉まる音がやけに響いた。

鞄の中を覗くと携帯が光っていた。弱いバイブレーション。電話や。ディスプレイには今まさに想い浮かべていた人の名前。





「もしもし」
「も…もしもし」
「もしもし」
「もしもし」
「何回言うねん」
「いや、なんか」
「どないしたん」
「メール見た?」
「いや、今部活終わってん」
「あ、そうなんや。お疲れさま」
「で?そんなに返事の欲しいメールやったんや」
「えっちゃうよ!電話してもええかなって思って…」
「うん?」
「…なんかあたし勝手にイライラしてたから」
「そうやなあ。メールからイライラが伝わってきたわ」
「…ご、めんって言おう思てん。あたし侑士には部活頑張って欲しいから」
「うん」
「やから、今は我慢する」
「我慢?」
「そう。お正月までかなあ。お正月には帰ってくるやろ?」
「そやな。正月か…」
「ゆーし、」
「ん?」
「……会い、たい」
「…うん」
「すき」
「うん」
「侑士と手ぇ繋ぎたい。侑士にぎゅってしてほしい。侑士と目を見てしゃべりたい。やないとあたし、変になる」
「…名」
「ごめん、やっぱりあたしが変やわ」
「名、」
「侑士、人って無いものほしがるんやね。あたし侑士に会いたくてしゃあない」

名、泣かんといて

侑士の優しい声は、電話を通しての機械音で、なんか余計に寂しくなった。



アイウォンチュー








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