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「…あの、姓先輩」
放課後。名の靴箱の前に少女がいた。テニス部の練習ももう終わったらしい。どうやら名を待っていたようだ。困り顔で名に話しかけた彼女を、名はよく知っていた。テニス部のマネージャーで、名が嫉妬した張本人だ。今となってはもう恥ずかしい以外の感情はない。名は驚きとも困惑とも言えない、何とも微妙な表情をしていた。だが心のどこかで、彼女は真田のことが好きなのではないか、と思っていた。その心配は杞憂に終わった訳だが。
「私、あの、真田先輩が好きとかじゃ、無いので」
名の思いとは裏腹に、彼女はゆっくり、しかしはっきりとそう言った。名は少しほっとした。そして自分の余裕の無さに笑いがこみ上げてきた。
「ちょっとだけ、そうなのかなって思っちゃった」
「違うんです、私は、…」
刹那、顔を真っ赤にして、彼女は黙りこくった。まったく何のことかわからない名は少し困惑したが、すぐにその理由はわかった。
「姓先輩、真田元副部長が探してたッスよー!って何でお前ここにいんの?」
「い、いいじゃない何でも!切原こそ何でいるのよ」
「うっせーな忘れもん取りに来たんだよ!」
仲良きことは美しきかな、とはよく言ったものである。名は二人の邪魔をしないように早く帰ろう、と思った。
「切原くん、弦一郎はどこにいるかな?」
「部室にいると思いますよォ。電話したのだが…とか何とか言ってたッス」
名は赤也の似ていない物真似と仲の良い二人に笑いながら去った。部室に行く途中で携帯を開くと確かにある着信ありの文字。
(いいなぁ、あの二人。仲良しだな)


120125
無自覚


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