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幸村精市は意気揚々としていた。自分の好きな美術の授業ということもあった。校舎から見えるグラウンドでは体育の授業が行われ、女子たちの黄色い歓声から丸井がそこにいることがわかった。仁王の白髪は遠くから見てもすぐ目に付くはずだが。
A組とB組は合同で体育を行う。グラウンドの片隅で仲睦まじく話す真田と名を見ても何ら不自然ではなかった。声はもちろん表情もよく見えないが、あれから二人が付き合ったのかと思うと幸せを願う半分、少し苛立つ自分がいることも否めなかった。

「幼なじみとはいえ、付き合うと変わるものかい?」
幸村は部活の終わりに真田に問いかけた。また赤面すれば彼の頬に鉄拳制裁をする気でいた。
予想に反し、真田は少し罰が悪そうに目を泳がすだけ。幸村は違う意味で拍子抜けしてしまった。
「その、だな…」
「…付き合ってるんでしょ?」
「……つきあおうとは言っていない」
幸村は自分の顔が間の抜けている顔だとわかっていた。だが、直せなかった。これほどまでに形にこだわる男だとは思っていなかったのだ。いや、よく考えると真田はそういう男かもしれない。幸村は見開いて乾いてしまった目をゆっくり閉じて、ため息をついた。
「言葉で言わなきゃつき合ってることにならないの?姓さんは真田に好きだって言ったんだろ?真田も好きなんだろ?相思相愛。めでたしめでたし」
テニスでは真っ向勝負云々言って後輩を扱いている真田が恋愛では奥手中の奥手、手足を引っ込めた亀のよう。幸村は名がかわいそうだと思えた。
「姓さんに電話。今」
これでいよいよ真田が日常会話だけで終わってしまったら制裁を加えてやろう、と心の中で決心した。



120118
じれったい

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