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無言だった。足早に歩く真田と手を引かれた名を見てひそひそと笑った生徒も、真田が一睨みすると押し黙った。相変わらず二人は無言で、名に至っては涙すら流していた。

屋上までの踊場で真田の足は止まった。名の涙もすっかり止まっていた。
「蓮二と何故ふたりきりだったんだ」
無言。
「何故蓮二の前で泣く」
俯いたまま、名はゆっくり口を開いた。
「弦一郎には」
俯いた名の表情は、真田からは見えなかった。はっきりした声から泣いている訳ではないということはわかった。
「弦一郎には私がいなくても平気だと思ったの」
「何を、」
「私には」
真田の言葉は名に遮られた。相も変わらず名は下を向いている。真田は名が言うことに耳を傾け、その言葉に耳を疑った。
「弦一郎がいなきゃだめだから」
恐る恐る伸ばされた真田の手は、名の頭に触れた。名は少しだけぴくりと反応したが、反抗する様子も逃げる様子も見せなかった。
「弦一郎とマネージャーさんと話してるの見て嫌だなって思った」
小さい声で紡がれる言葉。
「弦一郎にこっち向いて欲しくて、電話も出なかった」
言葉は溢れて止まらない。
「柳くんを利用したみたいだけど、怒ってくれてるの、嬉しい」
名はようやく真田の目を見た。
「…――弦一郎がすき」
頭に置かれていたはずの真田の手は、いつの間にか名の背中に回り、頭ふたつぶん違う名はすっぽりと収まってしまった。息苦しいほど力強い抱擁、その息苦しさすら、名には愛しかった。

111102
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