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「姓。今日の午後はお前と弦一郎の話題で持ちきりだぞ」
名は一人で図書館にいた。どこに行けば見つからないかを考えた結果。幸か不幸か、今図書館には誰もいない。放課後になると、柳に声をかけられた。
「弦一郎と姓がキスをしていたと」
「だっ誰がそんなこと!」
名が勢いよく立つと、反動で椅子が倒れた。柳がゆっくりとその椅子を持ち上げて、元の位置に戻す。名は目を丸くして立ったまま動かない。くつくつ、と柳は喉を鳴らして笑って、思った。本当に、からかい甲斐がある。
「弦一郎がふられたとも聞いたな」
名は黙り込んだ。少し赤い目には、また涙がこみ上げている。
「…フられたのは、私だよ…」
柳は一瞬黙った。そして一歩、名に近付いた。
「ならば俺が今ここで姓にキスしても何も言われないな」
また一歩、柳が近づく。名の頬を涙が伝う。柳の手がそれに触れる。「名!!!」
柳の手が名の頬に触れた瞬間、図書館の扉が開いて、大きな低い声が響いた。
「…貴様ら、二人で…何をしている?」
扉を開けたまま立ち尽くす真田。柳はニヤリと口角を上げ、いつもは閉じられている目を少し開けて言った。
「弦一郎にフられたと彼女が言ったのでな。慰めていたところだ」
真田は眉間に皺を寄せた。つかつかと二人の方に歩み寄ると、涙を見せまいと下を向いている名の手を掴んだ。
「行くぞ、名」
少しだけ優しくなったその声に、名は抵抗する気力もなく、ただなすがままに引っ張られていった。
一人取り残された柳は、携帯を取り出し、アドレス帳を開いた。
「…精市か。あの二人のことだが…ああ、心配ないだろう。…ふ、そうだな」
パチン、と携帯を閉じ、柳はいつものように椅子に座って本を開いた。委員会の仕事で最後まで見届けられないのが残念だと思いながら。

0727
こちら迷宮

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