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幸村精市は退屈だった。入院している間の遅れを取り戻さなければならなかったが、苦手な化学の授業はどうしてもやる気が起きなかった。机に左肘をついて、右手にシャープペンシルを握る。ノートには日付しか書かれていない。
(何か起きないかなあ)
そんなことを考えたところで退屈なのは変わらなかった。ふと窓の外を視線をやると、一人の少女が、閉まった校門をよじ登っているのが見えた。
(あれは、真田の)
どう考えても遅刻であるのに慌てる様子を見せない。とぼとぼと歩く彼女はやはりマイペースで、厳格な真田の調子を狂わせる。後で真田のクラスに行こう。あの二人の掛け合いは面白い。…幸村は化学の授業にいくらかのやる気が出た。

「…名が?」
「うん。…って、あれ?真田の席からは見えなかったの?」
幸村への返答もまともにせず眉間に皺を寄せたまま、真田はあーとかうーとか、意味の分からない声を出している。幸村は違和感を感じ、同時に苛立ちも感じた。普通の少年のような態度の真田への違和感と、自分よりも図体の大きい男がウジウジしていることへの苛立ち。
ちょっとからかってやろう。幸村の中の何かが疼いた。
「何なの真田。あの子とチューでもした?」
「!」
ほんの冗談のつもりだった。まさかそんな反応が帰ってくるとは思っていなかったのだ。
赤面し目を見開いている真田を見たのは、長いつきあいで初めてだった。一瞬言葉をなくした幸村は、真田から視線を外した。すると少し向こうに見えた名と目が合った。
「…ほら、早く行ったら?」
「む…」
「好きなら好きではっきりさせなよ」
「誰も名が好きだとは一言も、」
「誰も姓さんのことなんて言ってないじゃないか」
名は幸村にひらひらと手を振り、友人であろう女子と背を向けて歩きだした。彼女が真田に近づいてこないなんて珍しい。明日は大雨だ。
真田が幸村に背を向けて歩き出した。昼休みはあと30分。
(おもしろくなりそうだ)

0712
押しつぶされたこころ

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