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駅についたのはすっかり日が落ちた後だった。歩いているときは何を話していたかははっきり覚えていない。満員電車の中、彼女とは何も話さなかった。
いつのまにか俺の降りる駅に近づいていた。やる気なさげな車掌のアナウンスが聞こえた。
「…じゃあ、気ぃつけての」
満員電車の中、小さく一歩踏み出した。進もうとして、腕に違和感を感じた。掴まれているような。視線の先には、顔を真っ赤にして俯いた名ちゃんが、小さな手で俺の腕を掴んでいた。
ドアが閉まります。ご注意ください。…またもややる気なさげな車掌の声が聞こえて、ドアが閉まった。

結局俺は名ちゃんの降りる駅で降りた。その間、名ちゃんは俺の腕を掴んだままだった。彼女の降りる駅は大きな駅で、降りる人は多かった。人はほとんどいなくなって、駅のホームには俺と名ちゃんだけになった。
「…名ちゃん?」
「すき」
ずっとだんまりを決め込んでいた彼女の言葉で、俺の息は一瞬止まった。
「すき、なの」
今にも泣き出しそうな彼女の震えた小さな声は、誰もいないホームで、はっきりと聞こえた。


小さな手は俺の腕を掴んだまま。

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