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メールで呼び出されたときはうきうきわくわくした。何せわたしたちはおつきあいしたてのホヤホヤなのだ。日吉から来たメールのたった一通に感情が揺れ動いてしまうくらいにどきどきしている。

なのに、まさか、彼女と二人きりでいるのに読書ばかりしているとは思わなくて、わたしはひどく落胆した。昼休みの教室にはほとんど誰もいなくて、静かな空気とわたしがお弁当を食べる音だけが聞こえる。

これ以上ないってくらい気まずくて、いつもよりもずっと早く食べ終わってしまった。日吉はひたすらに本を読んでいる。お昼はもう食べ終わったのだろうか。テニスの練習には行かないのだろうか。

(何でわたしを呼んだんだろ…)

依然無口で喋る気配もない。ただページをめくる音だけが空っぽの教室にやけに響いた。

(帰ろっかなー…)

なるべく、なるべく静かに席を立った。わたしがここにいても日吉の邪魔だろう。おそらくそのうちテニスコートへ行ってしまうのだから同じことだ。

「どこ行くんだよ」
「え、わたし、邪魔でしょ?」
「何でだ」
「だって日吉、ずっと本読んでばっかり」
「目の前にいてればいい」
「え」
「…そこにいろ」
「え?」

日吉の目がまた本に戻った。表情はよくわからない。

「ねえ」
「…」
「ねえ日吉」
「…なんだ」
「お弁当食べたの?」
「…ああ」
「鳳くんたちと?」
「ああ」
「わたしも日吉たちと一緒に食べたいなー」

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、甘えてなんて、みたりする。駆け引きなんて高度な技は持ち合わせてはいないから、日吉に少しだけ近づいて、目が見えるところまで、あ、日吉って意外と睫毛が長いんだなあ。

日吉が静かに本を閉じた。細長い切れ目がわたしをとらえる。
近づく。薄茶色の髪の毛。わたしよりも長い、睫毛。
ぶつかる。やわらかな唇。

「ひ、ひよし」
「迎えに行く」
「あ、う、…うん」
「ふたりで食べるぞ」
「わ、わかった」

予鈴が鳴るまではまだ少し時間がある。日吉と何を話そうか。わたしはそればかり考えている。

「告白してよかった」

ぽつりと呟いたわたしに、日吉は優しく笑って、頭を撫でた。自然に頬が緩む。それは世界で一番優しい午後のことだった。







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