short | ナノ



飛んだり跳ねたり飛んだり跳ねたり、取り敢えず凄い訳。いやー、本当格好良かったなー。思い出すだけで惚れそうだわマジで。だって飛んだり跳ねたりって、そこら辺のヤツがジャンプしたりするのとは比べ物になんない訳よ。月とスッポン所か、月とミジンコだわ。もうアメコミもビックリなスーパーマンなの! ちゃんと分かってる? 梅干し食べてる方じゃないんだからね。縦横無尽に飛んだり跳ねたり、あれが正しくヒーローだわ! ねぇ?


「いや、熱弁されても俺様にはそのスーパーマンみたいなヤツが飛んだり跳ねたりしてる事以外、全く理解出来ないんだけど」


昨晩見た夢を興奮気味に熱く語り、一気に捲し立てる私に佐助は白い視線を投げて寄越した。困惑と、コイツ何言ってんだ的な、呆れた感情が含まれているのが見て取れる。畜生、コイツとは一生分かり合えないらしい。取り敢えず腹が立ったのでジト目で睨んでおいた。


「他にも色々あったと思うんだけど、やたら忙しそうに飛んだり跳ねたりしてた事しか覚えてないんだよね」

「忙しそうに飛んだり跳ねたりって要領を得てなさ過ぎ。と言うより、そんだけの不確定な情報だけで格好良いになっちゃうなんてなまえちゃんって結構単純なんだね。飛んだり跳ねたりなんかバッタでも出来るでしょ」

「だって格好良かったんだもん」


そう、夢の中のマイヒーローはそれ程迄に魅力的だった。飛んだり跳ねたりしてるイメージしか無いけど。
私は時代錯誤なド派手で華美な衣装を着て、姫とかなんだか呼ばれて。


「……俺様放ったらかして一人で悦に入んないで。んで、顔は覚えて無いの?」

「全く。すっぽ抜けてるんだよねコレが。何でもっとガン見しなかったのかなぁ〜夢の中の私。やっぱアレか、跪かれて照れてたのかな、私シャイだし」

「科なんか作らないでよ気持ち悪い。なまえちゃんがシャイとか俺様初耳。それより、跪かれたって如何いう事なのさ」

「そのままの意味なんだけど、跪かれて手を出されてさ、"後生だから手を取ってくれないか"って。ホント、メロドラマみたいな夢だったよ」

「それで?」

「うん、でも何でか知らないけど、あの時の私は差し出された手を取りたくて堪らなかったのに、結局取れなかったんだよね。もどかしいって言うか、切なかった」

「…………」

「……どうしたの佐助?」

「ねぇ、」

「何?」

「もし今俺が跪いて手を出したら、なまえちゃんは手を取ってくれる?」

「は?」


判然としないまま訊き返した途端、佐助は脚を折って膝を着き、私の方へ手を差し出した。


「お願い、後生だから」


得体の知れない既視感が、急激に私に押し寄せる。
全く一緒、寸分の狂いも無く。従者の様に跪くその様子は夢の中のヒーローとピッタリ一致した。

何このデジャヴ。

20120924
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -