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私の一族の女は皆、この時代にしては身の丈がずば抜けて高かった。
大母様は六尺弱母上(父上と母上は親戚同士)はぴったり六尺、そして私は五尺と九寸。叔母上や従姉妹に姪、一族の中で私が知り及ぶ女は一様に大きかった。
その為外に出るまで世の女は皆こんなもので仕えている女中が異常なのだと当たり前の様に思っていた私は幼少の砌、外界でおおよそ世間一般並であろうと言われる女を見て、頭を槌でガツンと殴られた様な衝撃を受けたのである。


そんな一風変わった一族であるから、娘に嫁ぎ先があるのだろうかと苦心するのは決まって当人らの父や兄弟である男共なのだが(女達は既に諦めている節がある)、私の場合は運よくあれよあれよという間に毛利元就様の元に輿入れし、正室に収まるに至った。
元就様は氷の面と迄呼ばれる冷徹な武将ではあったがその反面とても不器用で、隠れた優しさを持った方だった。自ずと愛しさが生まれるのにもそう時間は要さなかった。
しかし悲しい事に、私の家の男達と比べてもかなり華奢な体躯であらせられる元就様と私との身長差は、さして言う程も無かったのである。
女用に誂えた草履は厚みがあり、履けば下手をすれば元就様の身の丈を超えてしまう。夫より身の丈の高い女と並べば元就様の顔がまるで立たない。そう思うと迂闊に外は疎か庭へ出る事さえも憚られた。
智将と称される程のお方が私の所為で陰で軽侮されるかも知れないと思うと、どうにも我慢ならなかったのだ。


「……何を悩んでおる。そなたはそうして塞ぎ込んでいるばかりぞ。気丈に致さぬか」

「元就さま……。私は、私が情けのうございます。この身の丈の為に元就様と外へ出歩く事もままならない。この身体が恨めしいのでございます……」

「心を痛めて迄気にする事では無い。我は気にならぬ」

「いいえ。元就様が気にせずとも、私が気にするのです」


私が半ば泣きながら申し上げると、元就様は考える様に押し黙った。
そして暫く沈思なさった後、何を思い付いたのかいつもの元就様らしからぬ御様子で慌ただしく部屋を出て行かれたのである。


こうして、今日も今日とて元就様は踵の高い履物と珍妙な兜というお姿で、見事な采配を振るっていらっしゃるのだ。
ああ、本日の元就様もお背が高くてとても凛々しゅうございます。


(※一尺=30.3センチ、一寸=3.03センチ)

20120924
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