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元就が大の日輪好きである事は、彼の友人知人の間では周知であり最早常識である。彼が空を仰ぎ太陽を崇めていても突っ込みは疎か、気にせずなるべく関わらないようにするのが仲間内での暗黙の了解(邪魔をしたら散々な目に合わされるからというのが一番大きい)だ。
今正に、元就は絶賛日輪中である。
うやむやの事情で彼の家に用があった私は、さんさんと降り注ぐ光の中、心なしか楽しげに寝具をベランダに干す元就を恨めしげに眺めるハメになっていた。……何故。


「あの〜、元就さん? 良い加減課題を見せて欲しい……」

「何度も言わせるでないわ。暫く待っていろと申したであろう。それとも貴様はそれすら理解出来ぬ阿呆であったか?」

「暫くってどの位? もうかれこれ一時間以上は待たされてるんだけど」


元就は私の言葉を意に介していないようで、フンとあからさまに鼻を鳴らすと、「他人に課題の手伝いを乞う時点で、程度の底は知れているか」とこちらに一瞥寄越し、そしてまた日輪タイムに戻るのだった。焼け焦げてしまえ。
先程から数分毎にこのやり取りをしている気がするのは、私の気のせいではない。のっぴきならない事情さえ無ければこんな家直ぐ出ていってやるのに。今の時間に大学の課題を写すという意味で遠回しに暇だと言えば、「畳の目でも数えていろ」、だ。言外を読み取ってもくれない。因みに、元就の部屋はフローリングである。


室内で一人律儀に正座して待っている(最初に「正座でもして待っておれ。精神が弛んでいるなまえには丁度良い」というお言葉を頂いた)私は、軽い悪戯を思いついていた。雨の日以外のほぼ毎日欠かす事なく布団をせっせと日光消毒する彼に、一泡噴かせてやろう、若しくはア〇ター顔負けの真っ青な顔色にしてやろうというものだ。課題を見せて貰う約束を放置され、尚且つフローリングに正座させられた事の腹いせではない。決してない、断じてない。


「ねぇ、元就はお日様の匂いって好きなの?」

「好むと好まざるの問題では無い。日輪の威光を五感で感じられる事に、人はもっと我の様に畏敬の念を表すべきなのだ」

「……要するに好きって事ね」


やっと干し終わったのか、フカフカになった布団を抱え元就が部屋に入って来た。干している間中自分も外に出るその行動に意味があるのか甚だ疑問なのだが、幾らか満足そうな表情からして、彼にとっては至福の時間なのだろう。その満ち足りた表情が、今から私の言葉で一変する事になると思うと、ニヤリと口元が歪む。
元就は何だと言わんばかりに、訝しげな顔をした。


「……何ぞ」

「知ってる? 世間一般で言うお日様の匂いって、ダニの死臭なんだよ」

「…………」


ドサッという音は、言わずもがな元就が布団を落とした音である。


かなりの衝撃を受けたらしい元就は、その後一言も口を利いてくれなかった。
私の課題がどうなったかは、此処で語るまでも無い。

20110627
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