狂った歯車 2


カチリ、カチリ、歯車は狂っていった。


「小狼くん?どうしたんですの?」
「いや、なんでもない…」


喪失感が俺を襲う。好きなやつと一緒にいれて、俺は幸せのはずなのに。

俺は知世が好きで、知世も俺が好きだ。
それで、いいはずだ。


「そういえば、雪兎さんが呼んでましたの!一緒に行きません?」
「あ、ああ、そうだな。」
「ふふ、小狼くんと雪兎さんと桃矢さんの四人でずっといられれば幸せですね」


知世の中に、あいつはいない。
どこか影のある、でも必死で屈託のない笑顔を見せるあいつは、どこにも。

知世のおかげで、俺は中国に帰らなくても良くなった。この日本で、ずっと知世といられるんだ。うれしい、そのはずなのに。


脳裏に浮かぶのは、あいつの笑顔。


純粋で、まっすぐで、人を疑うことを知らなかったあいつ。


「小狼くん…?さっきからどうしたんですの?」
「いや…」
「まさか、さくらちゃんのこと?」


その言葉にギクリと肩を揺らす。
あいつは、さくらは消えた。行方不明になって、この町からいなくなった。


「許しませんわ」
「っ、」
「あんな子のこと、どうでもいいですよね?私のことだけを見てください。」


知世の手が頬を滑る。
その冷たさに恐ろしさを感じる。

ああ、俺はあいつに酷いことをしてしまったんじゃないか、そう思うけど、思考はその考えを赦さない。

俺は結局、知世を選んだ。
もう、後戻りはできない。


「小狼くんも、みんなみんな、わたくしだけを見てればいいんだから。」


ギシリギシリ、狂った歯車には誰も気付かない。

いいえ、それは気付いていても、恐ろしさから目を逸らすのです。

わたくしの居場所を奪った彼女に残るのは、絶望でしょう。さくらちゃんの代わりとして、この世に産まれた愛おしい彼女。

彼女を喪った世界に、光はない。


「あなた方は、喪ってはいけない方を亡くしたのです。」


そうにっこり微笑みながら呟いて、少女は深い眠りについた。




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