抜け出せない悪夢


「わたくし、さくらちゃんのこと嫌いなんですの。」


今でも、はっきりと夢に出てくる。
親友に、親友だと思ってた子に言われた最期の言葉が。

わたしを、縛る。

だから、





夜中、急に目が醒めた。
ガンガンとナニカが頭に鳴り響いた。

“嫌い”

その言葉がわたしを支配する。
辛くて、悲しくて。

死んじゃいたい。
死にたい死にたい死にたいよ。

でも、刃物はここにはなくて。

ガリガリガリガリ

なんでわたしはここにいるんだろう。

ガリガリガリガリガリ

さくらちゃん、さくらちゃん、
なんでわたしをここに連れてきたの?

ガリガリガリガリガリガリガリ


「柚子、やめい。」
『け、ろちゃ、』


傷痕を引っ掻いていた手をケロちゃんに止められる。

ボーッとして手首を見ると、ずっと前に傷付けた傷痕が広がって、血がダラダラと零れてる。


「手当てせんとな。」


ケロちゃんのその言葉を無視して、何処かに行きそうなケロちゃんの背中にギュッと抱き着く。


『ケロちゃん、ケロちゃんケロちゃんケロちゃん、なんでわたしはここにいるの?やだやだやだやだやだやだやだ嫌われたくない嫌われたくないのに。わたしが“桜ちゃん”じゃなかったから、小狼くんも、ともよちゃんも、わたしのこと嫌いになっちゃったの?わたしが、桜ちゃんを上手く演じないから?ケロちゃんも?ケロちゃんもわたしのこと嫌いになる?わたしなんかイラナイの?お父さんみたいに捨てる?ユエさんみたいに、小狼くんみたいに、ともよちゃんみたいに、わたしのこと、きらいになるの、?』
「っ、大丈夫や。ワイが柚子を嫌うことはありえへん。安心しい。」


優しく優しく笑ったケロちゃんが、わたしの頭を撫でて、額にキスする。
それが優しくて、あったかくて、わたしの意識は途絶えた。


ケロちゃんSide


「スリープ、おおきに。」


パタパタとワイらの周りを飛ぶ妖精のようなスリープにお礼を言ってから、柚子をベッドに横たわらせる。
それからベッドのそばにあった、消毒液を柚子の手首につけてから、包帯を巻いた。


「囚われてるんやなぁ…」


サラサラな柚子の髪を撫でる。

もう、柚子はまともな神経では生活できひんのかもしれん。
発作のように起こるこの出来事。
たぶん、ガキらも気付いてるやろ。

あの女のやったことは、柚子の心に大きな傷を残した。
…あの女だけやないな。
柚子の父親も小狼もユエも、クロウだって、柚子の心を壊した原因や。

それはもちろんワイらも。
柚子の壊れる寸前やった心に気が付かなかったワイらもあいつらと同じなんや。


「兄さん…」
「! クロロか…」


柚子の手をギュッと握っていると、後ろからそんな声が聞こえて、少し驚く。


「姉さんは大丈夫?」
「今は、な。クロロも自分の寝床戻り。ウボォーらにも、柚子は平気やゆうといて。」
「うん…おやすみ。」
「おやすみ。ええ夢見い。」


なあ、柚子。
ワイらがついてるからな。
一人で抱え込んじゃあかんよ。

涙を零しながら、死んだように眠る柚子の頭を撫でた。


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