ぼくと貴女は背中合わせの鏡だった


鏡Side

柚子ちゃんはぼくたち、カードの所有者。

本当は、半分気付いてたんだ。

柚子ちゃんの手首にあった傷痕を。
ぼくが柚子ちゃんの姿をとったときに気付いた、痛そうな傷痕。
はじめは、偶然傷ができたのかもしれないって思った。
けれど、だんだんと増える傷痕に自分でつけたものかもしれないって思うようになった。

でも、ぼくは“知”ることを恐れて、なんにも気が付かないふりをした。

ぼくが、あの時ちゃんと勇気を出して、柚子ちゃんに確かめていれば、柚子ちゃんは、あんな女なんかを心の支えにしなくて済んだはずなのに。


柚子ちゃんが“さくら”だったころ、柚子ちゃんの世界は数える程度の人でしかできてなかった。

桃矢さん、クロウの生まれ変わりの父親、小狼、月と月城雪兎、ケルベロス、そして、大道寺知世。

本当に、それだけで創られていた彼女の世界。


でも、それもあの女のせいで崩壊してしまった。

もともと綱の上を歩いているような危うさがあった彼女の世界は、いともあっさりと崩れてしまった。

クロウの愛し子?
そんなやつ、ぼくらは知らない。
それは柚子ちゃんのことじゃないの?
あんな女が、クロウの愛し子?

あの女は、ぼくらカードにとって、悪魔。消えていなくなってほしい最低最悪の異物。


ぼくらの主を裏切り、壊したやつらはみんな敵。


ぼくらを創ったクロウも、今ではぼくらの敵。その生まれ変わりである柚子ちゃんの血の繋がった父親も、ぼくらの仲間であった月も。柚子ちゃんが恋心を寄せた小狼も、みんなみんな敵で、ぼくらの憎悪を向ける対象。

でも、一番はやっぱりあの女で。

憎い。ぼくらの主を壊したあの女が。憎い、ぼくらの主に愛されてたのに、その愛を裏切ったあの女が。憎い、自分は愛されて当然といった顔をしているあの女が。憎い、今でものうのうと生きてるあの女が。

ぼくらの主は、柚子ちゃんは、絶対にあいつらが後悔したって、懺悔したって渡さない。

ぼくらがずっと守ってみせる。

だから、

「ずっと一緒にいようね。」
『うん。当たり前だよ!』


もう、ぼくらを置いていかないで。

ずっと君を守るから。


脳裏に映るのは、手首から血を流し、瞳からはポロポロと透明な涙を流しながら力なく微笑んで飛び降りた柚子ちゃんの姿。

一生消えない“ぼく”の記憶。

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