ただこの人を愛おしく想った


クロロSide

流星街に捨てられた母親と父親の間で生まれた子ども。それが俺だった。

苦労をしながら、でも、それでも、幸せだった。両親に愛されていると、幼いながらに気付いていたから。

なのに。

マフィアンコミュニティのやつらに全てを奪われた。

父親も母親も、生きる気力も。

そんな俺を拾ってくれた【魔女】と【使い魔】

この二人はマフィアンコミュニティの間ではすごく有名だった。地下で虐待され続けていた俺にも噂がくるほどに。

無表情で躊躇いなく人を殺す子どもと、それに付き従うように人を殺す獣。そして、子どもを守るように笑い続ける人形のように美しい顔をした人間。

地下から出られない俺には関係ないと思っていた。

あの日までは。
あの日、俺が魔女に拾われた日。

突然現れた一人と一匹は、ついでだと言うように、俺を助けた。


どうせなら、死んでしまいたかったのに。
家族を殺された俺に、帰る場所はない。

その気持ちを見透かしたように、魔女は笑う。


『ごめんね。……殺さなくて。』


そう呟いた魔女の顔を見れば、微笑んでる魔女の瞳はゆらゆらと憎しみで揺れていた。

俺と、同じ瞳。

ゾクリとした。
まだガキの俺でも分かるくらいの壊れた笑みに。

でも、それと同時にこの人に着いていけば、俺は、全てを手に入れられる気がした。この世の全てを。奪われる側から奪う側へ。





『ねぇ、クロロ。何か欲しいものはある?ケロちゃんが買いに行くって。』
「とくにないよ。」


優しく微笑みながら、そう聞く柚子姉さんに俺も笑う。

俺が姉さんに拾われて半年。

だんだんと、この人のことが分かってきた。この人は、定期的に死にたがる。

俺は一度しか見たことがないけど、兄さんが、姉さんが腕を切っているところを見て、止めていたことがある。

その腕に、しっかりと刻まれた切り傷を見たこともある。


柚子姉さん。
この人がすごく愛おしいと思う。
愛おしくて、愚かだと。


まあ、そんなことを言ったら兄さんに殺されるから言いはしないけど。
それでなくとも、兄さん、姉さんにはケロちゃんと呼ばれてる金髪の男は、姉さんに近付く人を皆殺しにしそうなほど、姉さんを溺愛している。

でも兄さんは兄さんでそれがなければ、俺に修行をつけてくれたりと、すごくいい人だ。


死にたい。
とは、思わなくなった。


(9/22)

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