どうかどうか、わたしを殺してください。


男の人が甲斐甲斐しくわたしを世話する姿が、わたしの瞳に映る。

でも、それを見てもわたしの心は動かされない。

なにも、感じない。


「さくら、」
『……………』


あぁ、でもなんで彼はわたしのことをその名前で呼ぶの?
ねぇ、なんで?なんで?


「さくら。」


嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。

だいっきらい。

その名前のわたしが嫌い。桜ちゃんを演じきれなかったわたしが嫌い。小狼くんを最後まで愛せなかったわたしが嫌い。友達を信じきれなかったわたしが嫌い。


わたしの名前が憎くて、わたしという存在が憎くてたまらない。

だから死んでしまいたかったのに。


ケロちゃんSide

さくらの瞳はすでに開いている。
せやけど、さくらは瞳になにも映さへん。
ワイが名前を呼んでもなんも反応せぇへん。

まるで人形。

カードもワイが触ってもなんも反応せぇへんし。


ただ。
さくらを世話するなかで気付いたことは、ワイらは異世界に飛ばされたっちゅーこと。

まだよくわからへんけど、ここは危ない世界。
せやから、ワイがさくらを守らなアカン。

さくらを。自分の主を。
それがワイのすること。


「さくら。気分はどうや。」
『………、』
「…さくら?」


今日も人形のようなさくらの名前を呼ぶ。ずっと、ずっと、さくらが反応するまで。

すると、ピクリとさくらが反応した。


「さくら?さくら!!」
『………めて、』
「さくら…?」

『や…めて…、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!!!!!!!』


狂ったように叫ぶさくらに、動きが止まる。

さくらはワイの手をはねのけると、頭を抱えて縮こまった。


『も、やだ、…、なんで、いや、』
「…っ、さくら!」


縮こまってブツブツと呟くさくらの名前を呼ぶ。

すると、弾かれたようにワイを見て両の瞳から涙をボロボロと流しながら、叫ぶ。


『やめて!!わたしは、さくらじゃない!さくらなんて、』

だいっきらい…!


憎々しげに、そう呟くさくらは、今にも消えそうな顔でワイをみとった。

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