もう一つの道標 2


ただ、あいつがいればよかった。
あいつがいれば、それだけでよかったんだ。


手を伸ばす。けど、その手があいつを掴むことはない。俺の手をすり抜けて、あいつは消える。

まるで、もとからそこにいなかったかのように。

そこでいつも目を覚ます。

まるで呪いのように、あの日のことは繰り返される。


「さくら…!」


消えた。俺の大切な妹が。
たった一人の妹が。
それと同じように、月以外のあいつのカードがなくなった。

この世界から、さくらがいた軌跡は消えた。

父親は、なにも言わない。あいつの友達だったやつも、なにも言わない。あいつの好きだったやつも、俺が自分の力を分けてまで大切だったやつも、

まるでさくらのことをなかったかのように振る舞う。

こんな世界で俺は笑えない。
俺の大切なたった一人の妹を奪ったこの世界で、俺は生きられない。


「たのむから、かえしてくれ…」


あいつとまた兄妹として生きられるなら、もうなにもいらない。

家族の繋がりも、愛情も、友情も、
消えたあいつにだけ、俺は俺の全てを捧げる。


「…それが、貴方の望みなのね」


魔女の瞳が俺を射抜く。それから真っ直ぐ視線を逸らさずに、魔女の瞳を見つめる。


「あぁ…俺は、世界を越えてでも、あいつの元に行く」
「わかったわ…貴方の対価はもうすでに貰ってある。貴方と同じように、あの子を大切に思う子から。」


辛かった。あいつのいない世界が。
だから、俺は魔女と取引きをした。
俺は自分の片目を代償に、力を貰った。
そして今度は誰だか知らないやつのナニカを対価に世界を渡る。あいつのいる《世界》に。


もし、もしもまたあいつと出逢えたら、今度こそあいつを何者からも守ってやる。例え、敵が俺の知り合いだとしても、俺はあいつを傷付けるやつを赦さない。

俺の最愛の妹。
あいつの手首にある傷痕も、あいつの心にある傷痕も、今度こそ、俺は全て受け止める。



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