水面に漂う桜の花びらのように


気がつけば、わたしはそこでただ漂っていた。
自分の存在意義すら分からず、わたしはただただそこに漂う。
時折聞こえる外の声がわたしに届く以外、そこはなにもなかった。そこで、わたしは夢を見る。永遠に続く夢を。最初のわたしの人生を。

誰もが覚えてるわけではない、前世の記憶。

そこでわたしは悲しみ、笑い、怒り、たくさんの感情を体験した。
でも、それは痛みとともに終わる。

楽しい楽しい夢は、勢いよく走る車から猫を助けたわたしが轢かれて終わってしまう。

そうして終わったはずの物語は今のわたしの存在意義を奪う。何故わたしの意識はこんなにも鮮明に残っているのか。何故わたしはこの水面に漂っているのか。
たくさんの疑問が浮かぶけど、それはまた始まる夢によって停止させられる。

物語を読む。一人の少女の物語。そこから始まるたくさんの物語を。少女の心は強く、優しく、そして美しかった。わたしはその少女が、少女の物語が好きだった。

きっと《前のわたし》が猫を庇ったのは、彼女に憧れたから。まるで聖女のような彼女に。

でも、それは間違いだったのでしょう?


おぎゃーおぎゃー

一人の女の子が産まれた。
それを愛おしそうにその子の母親が撫でる。

「産まれて来てくれて、ありがとう…」

ーーさくら


記憶を持って、あの子の人生を奪って産まれてきたわたしは、犯罪者となってしまったのだから。

4月1日。
わたしは彼女の生を奪って、この世に産まれ落ちました。

それは望んでいなかったこと。
それはわたしの最初の罪。
それは、すべての物語を狂わすこと。

ああ、死んでしまいたい

(2/3)

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