プロローグ 2


ねぇ、わたしが桜ちゃんだったら、小狼くんはさくらのものになったの?


「さくら?さーくら?どうしたんやー?元気ないで?」
『………、』
「……さくら?」


ケロちゃんがわたしの【名前】を呼ぶ。

イヤイヤイヤイヤ!!!!
呼ばないで、その名前でわたしを呼ばないで!!

今までの自分が崩れたようだった。

わたしのすべてが壊れてしまった。
なんでなんでなんでなんで??

わたし、頑張ったのに、
頑張ったんだよ?

なんで知世ちゃんは桜ちゃんのこと嫌いって言うの?知世ちゃんは、桜ちゃんが好きでしょう?
なんで小狼くんは桜ちゃんよりも知世ちゃんが好きなの?小狼くんは桜ちゃんを好きになるんでしょう?

みんな、桜ちゃんを裏切るの?

それとも、わたしだから?
わたしのせいなの?

わたしが桜ちゃんになってしまったから?
わたしのせい?わたしの努力は意味がなかったの?


そう気付いた瞬間に、言葉に言い表せないものが心に渦巻く。
泣き叫びたいほどの、咆哮。

でも、おかしいな。
なんにも言葉に出ないの。

なんにも、なぁんにも感じない。


ケロちゃんを無視して、わたしは部屋に隠していたカッターを取り出す。
わたしの今までの血がこびりついて離れないカッター。

それを手首に当てて、思いっきり引いた。


「さくら?!なにしとんねん!」
『…………』


ケロちゃんがなにかを叫んでカッターに体当たりをする。
カッターは部屋の隅に飛ぶ。

わたしの手首からはダラダラと流れる。
それを見た瞬間、わたしは心の底から安心できるの。


「血ぃ出てるや、……なんや、この痕…、」
『………、』


わたしの手首にある無数の切り傷を見てケロちゃんは絶句。

もう、なんだっていい。

消えたい。死にたい。この世から消えてなくなりたい。
誰もわたしなんかを記憶しないで。
桜ちゃんのことを記憶して。

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい消えたい死にたい消えたい死にたい死にたい死にたい消えたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい消えたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい消えたい死にたい消えたい死にたい死にたい死にたい死にたい

そう思うことは罪なの?


「さくら!コレ自分でやったんか?!」
『………』
「聞いとんのか!!」


無言で立ち上がる。
それから、部屋の隅にあるカッターを拾い上げようとする。

けど、それはケロちゃんに取り上げられてできなかった。

ねぇ、返してよ。

そう言いたいのに、声は出ない。


「なにしようとしてんねん!……あぁ!それよりはよ傷の手当てせなアカン!」
『……』


バタバタと忙しそうなケロちゃん。

部屋から出たケロちゃんにわたしも部屋から出る。



もう、いいよね。
わたし、頑張ったもん。



わたしの心、粉々に壊れてしまったの。


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