《好き》を消せば楽になれるかな

わたしの嗚咽だけが病室に響く。
彼の学ランをギュッと握り締めて、まるで彼に縋るように。

離れなくちゃ。離れなくちゃダメ。
そう思うけど、わたしの手は素直で。
離れたくない、ずっとこのままでいたい、って願ってる。

だって、わたしは彼が《好き》だから。
そんな資格なんてないのに。


『優しく、しないで…』
「……」
『わたし、優しくしてもらう権利なんてない…』
「………」


ポツリ、ポツリとつぶやく。
罪悪感がわたしを押しつぶそうとする。
典明を殺した罪。

ああ、いっそのこと、《愛》なんて《好き》なんて気持ち、消しちゃえばよかったのに。


「俺は、お前を女としか見れない」
『ひどいこと、いうね』
「……」
『わたしは、男になりたかった…』


そしたら、楽になれるから。
典明の耳で聞いたもの、目で見たもの、心で感じたもの、そのすべてをわたしが感じたと思えるから。


『もう、いたいのはやだなあ…』


まるで独り言を言うようにポツリとつぶやくと、わたしはゆっくりと目を閉じる。

きっと、次に目が覚めたとき、このぬくもりは消えてる。
でも、それでもいいから、わたしはただただこのぬくもりを感じていたかった。

優しく、頭が撫でられた気がした。

( 8/15 )

 
[mokuji]



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