一つ二つ犠牲を伴って
夢を見た。
酷く優しい、残酷な夢。
わたしが、生きてる夢を。
冷たい何かがわたしの頬を滑り落ちる。
彼とは違う、ぬくもりのない冷たい手。
『だれ…?』
今だに瞳の包帯が取れないわたしに、その手の持ち主を知ることができない。
わたしの疑問を無視して、手はわたしの頬からだんだんと下へ沿ってゆく。
唇、鎖骨、胸、お腹。冷たい手がくすぐったくて、
彼ではない、その手に拒否反応が出る。
『いや…!』
「ほう…また逃げるのだな。このDIOから。」
『!!??』
聞こえたその声は恐ろしく美しいあの人の声。
カタカタと身体が震える。
うまく、息ができない。
『ぁ、う…』
「お前は珍しい私の道具だ。勝手に逃げられては困る。」
『ゃ、だ、』
「なにがイヤだと言うのだ?このDIOの道具になれるのだから、イヤということはないだろう。…それとも、今すぐにジョースター一行を殺してしまうか?」
『や…、やだ、おねが、』
「ふん。ならば、私の命令を聞くことだ。」
逃げられない。
その言葉が頭を支配する。
イヤだイヤだ、そう思ってるのに、彼に逆らう強さをわたしは持ってない。
わたしが、わたしが犠牲になることで、彼らが助かるなら、彼らの生きてる時が長らえ、いずれこの人を倒してくれるなら。
わたしが犠牲になることはしょうがないことなのかもしれない。
だって、わたしは《典明》と《利麻》の二つの力を持つ人間だから。
( 9/15 )
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