それはある日のことでした。
『ディオ!!』
「?なんだい、姉さん。珍しいじゃあないか。そんなに大声を立てて」
『なんだい、じゃないでしょ!』
珍しく、本当に珍しく、怒りからか顔をほんのり赤く染めてサクラがディオに怒鳴る。
それに訝しげに眉を顰めれば、サクラは怒りを通り越して瞳に涙を薄っすら滲ませた。
『ディオ、ちゃんとジョジョに時計を返して』
「…なんだって?」
『ジョジョに時計を返してって言ったの!』
意味がわからないとでも言いたげなディオの様子にサクラは苛立ちを感じた。今までディオに感じたことのない気持ちに戸惑うも、キッとディオを見た。
〆
事の発端は、ジョジョのふとした言葉だった。
「あ、サクラ。懐中時計を貸してもらってもいい?」
『?いいよー』
サクラが学校編入への試験に向けて、自分の部屋で勉強してるときだった。ジョジョがベッドの上で寛いでいたかと思えば、そんなことを聞いてくる。
あれ?ジョジョって、懐中時計持ってなかったっけ?
そんなことを思って首を捻りつつ、ジョジョに持っていた懐中時計を貸す。すると、ありがとう、とはにかみながら、お礼を言うジョジョに心臓がドキドキと音を立てる。
『そ、そういえば、ジョジョって懐中時計持ってなかった?』
そんな気持ちを隠そうと思い、話をすり替えた。すると、困ったように苦笑いをするジョジョに、サクラはイヤな予感がした。
そのイヤな予感は当たっていて、自分の最愛の弟が懐中時計を借りたまま、返していないということがわかった。
そして冒頭に戻る。
『お願い、お願いだから、ジョジョに懐中時計を返して』
「……ジョジョが頼んだのか?」
『違う。わたしが勝手に言ってるだけ。』
「………」
サクラのあまりにも必死な様子に、ディオは苛立った。
何故、あんな貧弱な男のために姉さんがそんなに必死になる必要があるんだッ!どうでもいいことだろうッ!?
そんな気持ちを隠して、ディオはサクラの頬に手を滑らせた。
『ディ、オ…?』
「すまない、姉さん。借りてたのを忘れていただけなんだ。」
『なら、すぐに、』
「ああ、返すよ。」
その言葉に心底嬉しそうに破顔したサクラにディオは心を奪われ、それがジョジョのためだと気付き、さらにジョジョに憎悪の念を滾らせた。