12.5
ウーゴくんSide
「行っちゃったな…」
なんだか、胸の中にぽっかりと穴が開いた気分だ。
……って、身体はないんだけど。
俺はジン。
人間じゃあない。
それに“聖宮”の番人だから、俺はここから出られない。出られるのは、身体だけ。
「花…」
出来ることなら、一生花とアラジンと三人で過ごしたかった。
けど、それは無理なこと。
アラジンは主の写し身。
その彼がここから出ることは“運命”だった。
花は、俺たちとは違って運命に縛られることはない。彼女は、いわばイレギュラーなる存在。
アラジンのために、俺たちとは異なる世界から来た旅人。
俺と花とアラジン、三人がこの聖宮で過ごすことはもう、ない。
何十年、何百年生きてる俺の優しい記憶。
花は優しい女性だった。
きっと、いろんな人から好意を持たれる。すでに、アラジンからは好意以上のものを持たれてるしね。
でも、それは俺も同じ。
優しい彼女に好意を持った。
微笑む彼女に身を熱くした。
淋しそうな彼女を抱き締めたいと思った。
与える彼女に愛を与えたいと思った。
穏やかな彼女に恋をした。
全てが初めて感じる感情。
俺はこの感情を忘れない。
ずっと、この聖宮で彼女を想う。
「花、ありがとう…」
優しい記憶は、きっと俺をずっと癒してくれる。
例え、もう話せないとしても、目を合わせる機会がないとしても、心だけは君と共にあることを。
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