天女は逃げる術をすべて絶たれた(6/19)
私は巫女でしたから、男性一人を愛したことはありません。
ですが、そんな私でもわかります。
『あぁっ!』
「……」
彼の愛は狂っています。
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もう時間感覚もなくなった頃、外が騒がしくなりました。
私はいまだ、この天幕から出ることは許されず、また、彼の側を離れることを許されませんでした。唯一、彼と離れることが出来るのは、彼が天幕から出たときだけ。
窮屈な日々でした。
「ハルミヤ、これから馬に乗って移動するけど、馬に乗ったことはある?」
『いえ…、馬に乗ったことはありません。』
私の言葉に、彼は満足そうに無邪気な笑みを零す。彼の、その無邪気な笑みは、私が唯一好きな表情でもありました。
「なら、オレの前に乗れ。あぁ、その前にやらなくちゃいけないことがあるな。」
『え…?』
彼が、私に向かって刀を振り落としました。
『あぁっ!』
「……」
足首が、焼けるようにジワジワと痛みを訴える。
彼は、私の両足の腱を斬ったのです。
愛とは、暖かくぬくもりのあるもの。
愛とは、心を豊かにするもの。
愛とは、自分の心と相手の心を繋げること。
その考えは、間違っていたのでしょうか。
彼の“愛”は、ただ自分を相手に押し付けるだけのものでした。
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